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10月7日(水)アセンブリーアワー講演会「なぜ私は書くのか(ゲスト:黒川 創氏)」レポート

アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで50年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。
 
2020年10月7日(水)には、今年度第1回目となるアセンブリーアワー講演会を開催しました。ゲストは、小説から評伝まで数々の著作を書きあらわし、数々の賞を受賞されている作家の黒川 創氏です。「なぜ私は書くのか」と題し、現代の社会において文学、芸術、思想はどのような役割を果たすのか、お話しいただきました。

※本イベントは、学生・教職員のみ学内会場で聴講可とし、学外・一般の方にはオンラインで公開いたしました。

「なぜ私は書くのか(ゲスト:黒川 創氏)」講演会レポート

本講演会の「なぜ私は書くのか」というタイトルは、『動物農場』や『1984年』などに代表される20世紀前半期の英国作家、ジョージ・オーウェル(以下オーウェル、1903-1950)のエッセイから引用されたものです。
 
オーウェルはエッセイのなかで、自らの書く理由について、次の4点を挙げています。
 
(1)賢く思われたい、話題にされたい、死んだ後も記憶されたいという「純粋なエゴイズム」
(2)きれいな情景や心を打たれた経験を、人に伝える喜び(「審美的な情熱」)
(3)物事をあるがままに理解し、真実を見定め、それらを後世の人々のために伝えたいという欲求(「歴史的衝動」)
(4)世界をある特定の方向に後押ししたい、人々を説得したいという「政治的な目的」
 
オーウェルは「とても幼い頃、おそらく五歳か六歳の頃から私は将来自分が作家になることを知っていた」とエッセイのなかで述べていますが、黒川氏は、いつ書くことを選んだのか、なぜ書くのか、過去を振り返りながら語られました。

1961年生まれの黒川氏は、幼いころからテレビに触れて育ち、特撮映像の怪獣や、野球選手に憧れる幼少期を送りました。中学生の頃には『狭山事件』について中学の地元警察署長にインタビューするなど、既に独自の視点で情報を伝える取り組みを行っていたエピソードが紹介されました。自分の想いを表現したいと考え始めたのは高校生の頃から。写真や映像表現に興味を抱いた時期もあったそうですが、最も的確に思考を伝える方法として、言葉での表現を選択したと振り返ります。
黒川氏曰く、小説には二種類の特徴があります。
一つ目は、現実では同じ瞬間に起こっている現象を、文章では順序だてて描かざるをえないこと。必ず前後関係が発生することによって、新たな意味が生み出されるのは、絵画や映像などにはない、文章表現ならではの特徴といえるでしょう。
二つ目は、登場人物の存在です。小説の世界も、現実世界と同様に複数の人間が存在し、互いに関わり合いながら暮らしています。たとえ主人公に作家の思想を投影したとしても、その他の人物は、作家と異なる思想や意見をもち、主人公と対立することも起こりえます。作家とは、「別のわたし」を生み出す行為であると黒川氏は語ります。
 
本講演のなかで繰り返し語られたのは、表現とは想いを「人に伝える」「人に届ける」行為であるということ。たとえ1%の少数派になっても、自分の意見を発信していきたいと話す黒川氏から、表現に対する強い思いが感じられました。さらに、「人に伝える」「人に届ける」言葉を書くためには、その過程において自らの思考の曖昧さに気づき、明晰化していくことを避けては通れないとお話しがありました。
 
2020年は、新型コロナウィルス感染症の拡大により、世界中でこれまでの生活や価値観が一変しました。これからの社会では、経済的な豊かさや学歴の高さなど、常識とされてきた判断基準そのものが揺らいでいくはずです。そのような社会のなかで、若い世代には、表現を通じて思考を深め、自分なりの答えを出してほしい、そして人に届けてほしいと、激励の言葉を述べられて、講演会は終了しました。
黒川さん、このたびは貴重なご講演をありがとうございました。

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