2020年度新入生のみなさんへ 学長挨拶

動画メッセージ

Aw niche--Aw Bissilah--Aw Bora aw Kasso--Aw nana aw kasso (バンバラ語/意味:ようこそ、こんにちは。ここがあなたたちの新しい居場所です)
京都精華大学、学長のウスビ・サコ(Oussouby SACKO)です。
本日、ここに集まってくださった新入生、あるいは国内にいるものの大学に来ることができなかった新入生、そして日本への入国制限・入国拒否のためにいまだ国外にとどまっておられる新入生の皆さん、京都精華大学への入学を心よりお祝い申し上げます。あわせて新入生の保護者の皆さまにも、お祝い申し上げます。

本日、京都精華大学は、23名の編入生を含めて1,056名の学部生を、また大学院には66名を、新たに迎え入れることとなりました。この1,122名の仲間のうち、360名以上、つまり約3割が日本国外からの留学生です。
皆さん、京都精華大学へようこそ。Aw Bissilah-Awn Bekun

今回、皆さんと同じ場所で入学式を開催できないのは本当に残念なことです。つい先ごろまで、私たちは2度目の東京オリンピックを心待ちにしていました。世界の様々な課題を乗り越えて、人類のいっそうの進歩が期待されていました。国と国との壁が取り払われ、人とモノが自由に行き来しつつも個人の多様性が約束されたグローバルな社会の実現を思い描いていたはずです。そして情報技術をはじめ様々な技術革新によって、私たちの日常生活が大きな変化を迎えようとしていた矢先、「新型コロナウイルス – COVID-19」が現れました。専門家の中には、この「新型コロナウイルス」を「目に見えない敵」と呼び、その登場がパラダイム・シフト、すなわちそれまでの私たちの常識が非常識となる事態をもたらすだろうと予測する人もいます。一部の国と地域では、この見えない敵との戦いは新たな戦争であるとの宣言がなされました。グローバル化が地域間の緊密な連携をもたらしたことがあだとなり、世界全体の経済活動が多大なダメージを受けています。

数ヶ月、あるいは1、2年のうちに、この「新型コロナウイルス」の予防薬・治療薬が開発され、その脅威も封じ込められる可能性も示唆されています。とはいえ、私たちが長い年月をかけて作り上げた社会基盤の脆弱性と、経済的グローバル化が実現した地域間の相互依存関係の限界をあらわにした今回の事態は、単に私たち個人個人の記憶にとどまらず、世界の歴史に刻まれる出来事となるでしょう。

これまで人類は自然を軽視し、他の生命体を自らのエゴに従ってコントロールすることによって、人間にとっての利便性ばかりを追求してきました。今回の「新型コロナウイルス」流行への対応も、引き続き医学的な対策と、ややもすれば場当たり的な経済政策にとどまるのかもしれません。他方で、生物学者によれば、生命は常に変異するウイルスとともに進化してきたと言われています。今まさに家族、友人、同僚、地域社会といった私たち人間社会の基盤が揺るがされているのを目の当たりにして、実は人間こそ地球上の生命体の中で最も脆弱な生き物であるという自覚を持つことがなければ、私たちは今回の出来事から何の教訓も得られないでしょう。


この状況下に京都精華大学を自らの人間形成の場として選択した皆さんは、本日をもって、世界のどこにいても京都精華大学の共同体の一員としての自覚を持ち、人種、宗教、社会的背景、経済的背景の違いを認め合い、先輩、教職員とともに世界の変革を踏み出すことになります。今日から皆さんの戦いが始まります。そして、人間社会がより良いものに変わるまでその戦いは続くのです。京都精華大学では授業等を4月20日にスタートする予定です。京都精華大学は学生のことを一番に考え、様々な方法で、皆さんが必要とする技術、知識と情報を届けたいと思います。つまり、授業は対面式を基本的としながら、セイカ・ポータル(教学システム)等を活かして、大学に来ることが出来ない学生たちの学修の機会を保証します。

「新型コロナウイルス」の存在が語られ始めた頃、私はアメリカとヨーロッパに旅行・出張していました。そこで耳にしたのは、これはアジア特有の問題であり、通常の医療対策がしっかりしていれば、いずれこの流行も終息するだろうという意見でした。その後、あちこちでアジア地域の出身者が公共交通機関や公共施設で差別され、飲食店への立ち入りを断られ、街中で暴力をふるわれるといった差別的な事件が起こりました。この日本においても、中国人の出入りを禁止した店のことが報道されるにいたりました。しかし、そのいずれの国と地域も、世界人権宣言の採択に寄与し、その内容に賛同して、人間の尊重を目指してきたはずです。
京都精華大学は、世界人権宣言に立脚し、人間重視の教育に取り組むことを基本方針としています。本学は、これからの未来における新たな人類史の展開に対して責任を負い、日本と世界に尽くそうとする人間の形成を建学理念として掲げています。そういう意味で、京都精華大学の共同体は、皆さんの入学を歓迎し、「LOVE」というタイトルの冊子を配布しています。そこには、「世界人権宣言」を日本語訳し、詩人の谷川俊太郎氏の詩のほか、教職員から皆さんにあてたメッセージが記載されています。是非、読んでみてください。
20世紀が終わる頃、世界の国々はテロリズムとの戦いを旗印とし、国連の平和維持軍の派遣などを通して団結しました。ところが今回、この団結にほころびが見え、「新型コロナウイルス」への対応は、再び国単位、地域単位、家族単位へと閉じこもろうとしています。科学とテクノロジーの限界に直面して崩壊しつつある人間同士の信頼関係を回復するために必要なのは、今一度、人間とは何者なのかという問いを追究する「人文知=リベラルアーツ」です。私たちの過去を振り返り、人間社会に対する深い理解にもとづいて、より良い人間社会の未来を創造できるのは、リベラルアーツであることが明らかとなったのです。

私たちはどこへ向かうべきか? 来年のことさえ予測不可能になった人間社会はどうあるべきか? かつての国民国家や市場主義のグローバル化の限界は明らかです。こうした不確定要素の多い世の中にあって、私は新入生の皆さんが、これから数年間をかけて、自らの専門分野を極めるだけではなく、社会を再構築するための力を獲得することを期待します。様々な教訓をもとに、各自が責任ある行動をとりながら、私たち人間が再び自由になるための方法を探ることが重要です。京都精華大学の教育内容とその構造は、思考スキル・批判的思考・コミュニケーション力が求められる中で、皆さんが新しい価値観を創造し、世界を変えていく力を身につけることを期待して構築されています。

世界的に持続可能な社会が求められる現代において、京都精華大学は「学問」と「芸術」の力によって人間社会と世界の未来を創造する表現の大学であることを目指しています。京都精華大学が目指すのは、「地球市民」としての人格形成であり、主体性と協調性を備え持つ人間の育成です。新入生の皆さんにも、世界の変化に柔軟に適応できる知的なたくましさを身につけていただきたいと願っています。多様化しグローバル化する京都精華大学のキャンパスの「小さな空間」が、皆さんにとって世界と交流する拠点になることでしょう。
京都精華大学は一年を通じて様々な公開講座と連続講座を企画しています。その一つに岡本清一記念講座があります。初代学長・岡本清一の掲げた教育理念をいっそう力強く継承するため、「日本と世界を考える」と題した連続講座です。そこでは「日本と世界との関係」や「自由」などをテーマに、京都精華大学の社会的意義が問い直され、新しい大学像が見出されます。昨年度は、世界中の難民キャンプや自然災害の被災地での「国境なき医師団」の取材活動を続けている作家・クリエーターのいとうせいこう氏が、「けれど、人間には仲間がいる。」というテーマで私と対談しました。この対談がもたらしてくれたメッセージを、ここで皆さんと共有したいと思います。
この対談では、若い世代がいま「個」を見せにくい現状にあることに対してどう対処すべきか、という私の問いに対して、いとう氏が次のように答えてくれました。「『個』であるかぎり、みんな違ってあたりまえで、違いを認め合うことが前提。大人はもっと違う意見や行動を褒めるべき。自信のなさゆえに自分に対しても他者に対しても評価が厳しくなっている。褒めあうことで好循環を生み出し、5年後10年後にはポジティブな言葉が行きかう社会を目指すべきである」。
また、「今までのやり方を変えることに抵抗があるせいか、こだわりが強くなっているのではないか。もっと自分を解放してほしい」という私の言葉に対して、氏は「そこを直せる自由区が大学なのだ」と応じてくれました。
続けて私は次のように氏に問いかけました。すなわち、「今は18歳で投票権を与えられるので、それまでに市民としての一定の価値観を持つべきであり、これからは18歳までの市民教育が必要なのではないか。ただし『個』を抑制しながらコントロールするだけの教育なら必要ない。市民社会の一員であるという意識が自然に人のために尽くすことの意義を自覚させるのでなければ。例えば『国境なき医師団』の活動のように、人のために尽くす人間になるためにはどんな教育が求められるのか」。いとう氏は次のように答えました。「市民はときに不服従でなければ。自分が社会をつくっている責任感があるからこそ不服従にならねばならないときがある。今の教育ではこうした不服従を教えていない。『個』を排除して同じ方向だけを指し示す教育では市民は生まれない。そして市民が生まれない社会は社会ではなく、ただの群れだ。だからせめて大学では、そうした意識を持ってほしい。大学は多種多様な『個』が集まる場所であり、まさに社会である。仲間というのは同じ考え方の人々の集まりではない。違う人がいてこそ面白い。考えが違うからといって、軽蔑するのではなく、お互いの違う考え方を認めあうこと。それが市民をつくり、だから投票制度がある。不服従はわがままだと誤解されやすいが、実は誰かのためでもある。違いは仲間意識の前提であり、そうして初めて『人間には仲間がいる』ほうがいいと言える」。

最後にいとう氏は、「大学とはひとりひとりが違うものを探しに来るところ。同じ趣味のおもしろい仲間に会うだろうし自分と同じような考えの仲間にも会うだろう。でもその仲間が持っている自分と違う情報を吸い取って自分の成長に変えてほしい」とも話して下さいました。

いとうせいこう氏とウスビ・サコ学長の対談講演会の記録はこちら

Let's make real change happen! Starting from our little world, Kyoto Seika University!

以上、私の祝辞とさせていただきます。
ご入学ありがとうございます。AWNICHE
2020年4月1日
京都精華大学長 ウスビ・サコ

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京都精華大学 広報グループ

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※取材いただく際は、事前に広報グループまでご連絡ください。

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