行動する文学「日本文学」編

2016/01/28

行動する文学「日本文学」編

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京都には普段何気なく歩いている街並みの中に、文学という視点で見ると、思いがけない接点がある場所があります。そこで今回は文豪・谷崎潤一郎のゆかりの地である石村亭(せきそんてい)にやってきました。谷崎は高い芸術性が評価される一方で、過激な性描写も多く、厳しい検閲と戦ってきた小説家でもあります。そんな谷崎がこの石村亭で生活をしながら、執筆活動を行っていた時期があるのです。小説『夢の浮橋』の舞台にもなっており、部屋や庭の様子が作中に描かれています。では、谷崎がどんな濃密な生活を送っていたのか、肌で感じに行きましょう。

禁断の小説『夢の浮橋』はここで生まれた!

下鴨神社に面した場所にある石村亭は、母屋と書斎が別宅になっており、書斎で執筆するときは妻の松子夫人でさえ中に入ることが許されませんでした。そんな中、谷崎の持病である高血圧症が悪化。右手で筆が握れなくなるのですが、手がだめなら口で書けばよいと、口述で作品を作り続けるのです。そして完成したのが小説『夢の浮橋』。この作品は主人公・糺(ただす)が実母を想う母恋もので、幼少期に実母が死んだあと、継母(ままはは)が登場します。母を想う糺は実母の面影を継母に重ね、成人してからも継母の乳房を求め続けるという、過激な内容になっています。

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小説『夢の浮橋』の作中で主人公・糺が継母の乳房を求め続けた母屋
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書斎の応接室。「ここに谷崎が座っていたんですね!」と感動するイケメン先生
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石村亭に流れる川。小説『夢の浮橋』の作中で継母が妖艶に足を浸していました
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庭園にある石碑。小説『夢の浮橋』の冒頭の詠が松子夫人の直筆で書かれています
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棟方志功の装丁が美しい谷崎潤一郎(著)『夢の浮橋』/中央公論新社

 

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谷崎の作品では女性の足が描かれることが多いのですが、それは谷崎自身が足フェチだったからだと言われています。谷崎の晩年の代表作『瘋癲(ふうてん)老人日記』ではその妖しい魅力が見事に炸裂。作品の内容は77歳の老人である主人公・卯木督助が息子の嫁に惚れ込み、嫁の足に踏まれたいという欲求を満たしていく物語で、老人の性が生々しく描かれています。督助は死んだあとも足に踏まれて感じ続けたいと、墓石を息子の嫁の足形にしたという、これまた過激な内容です。谷崎は私生活を度々小説に重ねることがあり、この作品では実際の義妹の息子の嫁である渡辺千萬子さんをモデルにしています。
更に、督助は左手が使えませんが、谷崎も晩年は持病の高血圧症を悪化させ、右手が不自由だったなど、足フェチ以外の共通点もあり、督助は谷崎本人なのではと思わせる記述がでてくるのです。
ということで、谷崎がどんなお墓で眠っているのか実際に確かめてみましょう。果たして足の形をしたお墓はあるのでしょうか?

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同じく谷崎潤一郎(著)『瘋癲老人日記』/中央公論新社
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哲学の道沿いにある法然院に谷崎のお墓があります

これが過激な作品をつくり続けた 谷崎が眠るお墓です

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谷崎のお墓は京都市左京区の法然院にあります。実際に訪れてみると、谷崎のお墓は足の形ではありませんでした。「寂」「空」と谷崎の直筆で書かれた墓石になっており、「寂」には谷崎と松子夫人が、「空」には松子夫人の妹夫妻が入れられています。お墓の近くには谷崎が好きだったしだれ桜が植えられ、春には綺麗に咲き誇ります。今年で没後50年の谷崎は『谷崎潤一郎全集』(全26巻)が刊行されるなど今再び脚光を浴びています。世の中が盛り上がりを見せるなか、過激な作品を生み出した谷崎は、好きなものに囲まれながら静かに眠っているのです。


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西野 厚志 NISHINO Atsushi
人文学部 総合人文学科 文学専攻
専門分野:日本近現代文学 / 小説・批評



1978年、京都府舞鶴市生まれ。早稲田大学教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(学術)。早稲田大学教育・総合科学学術院助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、早稲田大学・首都大学東京・大妻女子大学非常勤講師などを経て、2015年度から本学人文学部教員に就任。専門は谷崎潤一郎を中心とする日本文学、近代における古典作品の受容、文学と検閲制度や映像メディアとの相関関係について。主な著書に『講座源氏物語研究 第6巻 近代文学における源氏物語』(共著、07年)、論文に「Lost in Transformation―谷崎潤一郎訳「源氏物語」の〈女にて見ること/女性への生成変化〉―」(『日本近代文学』第81集)、「明視と盲目、あるいは視覚の二種の混乱について―谷崎潤一郎のプラトン受容とその映画的表現―」(『日本近代文学』第88集)など。また、谷崎没後50年・生誕130年にあたる15年と16年には、『別冊文藝 谷崎潤一郎 没後五十年、文学の奇蹟』(河出書房新社)、『別冊太陽 谷崎潤一郎』(平凡社)へ寄稿したほか、谷崎の代表作「細雪」が収録された『谷崎潤一郎全集』第19巻、第20巻の解題を担当した。

http://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/faculty/nishino-atsushi/


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