授業レポート 内田樹先生 特別講義「今、大学で人文学を学ぶことの意義とは」

2015/10/27

 今年7月に開催した「授業公開デー」。高校生向けに人文学部の通常授業を公開するイベントです。学内の明窓館 (めいそうかん)では、1年次科目「人文学概論」の特別講義として、人文学部客員教授の内田樹先生による講演『今、大学で人文学を学ぶ意義とは』が行われました。
当日は35℃を越える猛暑日 でしたが、人文学部の1年生をはじめ、他大学の先生や学生、本学の教員など200人以上が詰めかけ、会場はスタート前から熱気に包まれました。

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今の若者には「ウソを見極める力」が足りない!
 
 はじめに、人文学部長のウスビ・サコ先生が今回の講演について説明し、その後、カジュアルなスーツを着こなした内田先生が登壇。豪快に腕まくりした袖口からは、合気道で鍛えたたくましい腕がのぞいていました。
内田先生は開口一番、「客員教員になって、やっと学生の前で話すことができました。これで本学にご恩を返せる」と話して笑いを取り、会場を和ませました。
 
冒頭のテーマは、近年の社会・人文学系学部の人気低下について。韓国でも同様の現象が起きていることに触れ、「釜山大学の先生が、自国の文化や言語・歴史に関心のない人が、社会を率いる力を持てるのだろうかと危惧していた」という話が紹介されました。

また、「2014年に韓国の大型フェリー『セウォル号』が転覆・沈没した事件で、多くの高校生が犠牲になったのは、韓国の教育のせいだと責任を感じる教員も多いらしく、危機的な状況においては、目上の人の命令を聞くというルールをキャンセルしてもよいと、教えなかったことを悔いている」という声もあるそうです。

「教育において教えることが最も難しいのは、ルールを守るかどうかの境目であり、その境目こそが、人の生死を分けるもの。若い人にとって最優先の自己教育課題は、生き延びるために、“人が嘘をついているか、いないかを見極める力”であり、その力こそが“人文学の基本”である」と、内田先生は説明します。「ものを学ぶということは、その能力がないにも関わらず真偽を判定することで、一番大切なのは『こっちに行くといいはずだ』と、生物的な直観を研ぎすますことだ」というのです。

 
 
18歳から探すべき「自分に固有の食べ物」とは?
 
内田先生は、「人文学とは、具体的な知識や情報ではなく、もっと行動的なもの」だといいます。では、どうすれば人間の知性は活動を開始するのでしょうか?不思議に思っていると、「人間が根源的に思考する理由は、人間は知性が活動している状態が好きだからで、そうした、知性のしくみを理解することなしに、知性を使いこなすことはできない」のだそうです。

「知性を使いこなすために必要なものは、自己判断能力や識別能力といった“自身で考える力”で、これらの力を身につけるためには、講義で知識をただ聞いているだけではなく、必要であるか、必要で無いかを判断して吸収(食べる)し、自身の中で消化することが大切です。なぜなら、人はそれぞれに“知的な消化器官”が異なるからです」。

「18歳で大学にきたら、自分固有の食べ物を見つけなければいけない。平均的な食べ物を食べていていいのは18歳まで。大学では自分が食べられるものを選択する必要がある」という内田先生の言葉を、私自身も共感して聞いていました。

実際、高校までの義務教育で教わる内容はどれも“正しい答え”のあるものばかり。“答え”を強制的に共有させられているようで、授業を受けていても面白くなかったからです。ところが、初めて受けた大学の講義では、「わたしの話を鵜呑みにしないでください」と、先生自身から告げられるのです。その時はよくわかりませんでしたが、大学でたくさんの講義を受けるうちに、授業に対する姿勢が大きく変わりました。

高校までは“答え”をひたすら覚える勉強でした。しかし、大学では先生の話を聞いて、「自分の考えはどのようなものなのだろうか」と考え、先生と自分の考えを比較し、どんどん自分の中で新しい考え方を生み出していくのです。そのプロセスで得たことは、後に“自己判断能力”や“識別能力”へと変換されていくのだと知りました。

1年生のときは、この感覚を味わうには時間がかかるのかもしれません。しかし、内田先生の講演をきっかけに、これから講義を受ける学生たちの姿勢が少しでも変われば、人文学部生は大きく変化できるのではないか。私は人文学の未来に期待を持ちました。

講演中には、なんと我慢できずトイレへ走ったりと、お茶目な一面を見せながらも、会場の熱気よりも熱く語った内田先生。最後には、「嘘をつけない人も、いろんな人の嘘の構造を理解していくことが大切です。しかし、慣れるまでたくさんダマされる経験をしてください」と、ユーモアたっぷりに学生たちへエールを送りました。
 
 
安藤みやび(人文学部3年生)
 
 
 
 
 


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