細川弘明先生インタビュー

2014/11/12

 

Q.海外で長期間のフィールドワークをして良かったことは?

A.「世界では何が起きてもおかしくないのだと知ったことです」

 
僕が学生だった頃は、「文化人類学者になるために第一にすべきことは、2年間帰国せずにフィールドワークすることだ」というクラシックな考え方が支配的でした。だからこそ、先生から「青年海外協力隊でボリビアに行って人類学研究所のアシスタントをやらないか」と声をかけてもらったときは、ふたつ返事で引き受けたんですね。
 
私がいたボリビアのアンデス高地は、基本的には農耕社会でどこか日本の田舎と似ているところがあります。ボリビアから帰国後、一度、まったく日本と違う狩猟採集型社会に入ってみたいという思いが残っていました。そこで、オーストラリアの国費留学生の試験に応募して合格。オーストラリアに留学して狩猟採集型の生活を営んできたアボリジニの社会に入ったのです。
 
海外で暮らしていると、日本では絶対に経験できないことを経験することがあります。たとえば、ボリビアでは何度もクーデターが起きて、僕の目の前でも何人もの人が銃で撃たれました。
 
そうなると、ひとつの国のなかで人が殺し合うとか、自国の軍隊が国民に銃を向けて撃つとか、「これは世の中では普通に起きることなのだな」という認識ができます。僕にとってボリビアでの経験は大きなショックでしたが、非常に大事なことだったと思っています。もし、ボリビアの経験がなかったら、パレスチナやアフガニスタンで起きていることについても、自分に関係のある出来事だと受けとめて考えることができなかったかもしれません。
 
 
細川先生ボリビア滞在
 
 

Q.研究を通して「社会の現実に触れる」にはどんな方法がありますか?

A.ひとつの“モノ”を徹底的にリサーチすると社会のしくみが見えてきます。

 
たとえ小さなテーマであっても、徹底的なリサーチをすることによって現実に触れることができます。
 
たとえば、僕のゼミでは以前「ネギ」で卒業論文を書いた学生がいました。はじめ、彼女は「途上国と先進国のアンフェアな関係」をテーマにしたいと希望したのですが、こういう抽象的で観念的なテーマをそのまま扱おうとするといろんな人の議論をなぞったり整頓したりするだけで終わってしまう。いろいろ相談した結果「あなたの食べているネギを調べてみよう」ということになったのです。
 
ネギは僕らの身近な生活にあふれていますが、「どこで誰が作っているのか?」というと、ほとんどの人は知りません。「ネギは国産です」と言っているラーメン屋さんの裏口で仕入れを見ると、中国産のネギの箱が置いてあったりする。現場で見聞きするとかならず事実のズレが現れるんです。
 
そのズレを開いていくと、本当のことが見えてきます。「中国のネギとの価格競争に勝てない日本の農家」「中国のネギの安全性とは?」「日本の会社が中国でネギを栽培している!?」。彼女は調査のなかで日本の農業政策、中国への日本企業進出、中国の野菜の安全性、日本の食料自給率など、大きな問題にストレートに迫り、優れてオリジナルなレポートを書きました。
 
一見すると「ネギ」は本当に小さなテーマです。でも、ネギを徹底的に調べれば、世の中の経済のしくみやお金の流れも自然と頭に入ってきます。すると、「自分とは関係ない」と思っていた問題にも興味や想像が働くようにもなってくるんですね。
 
 
 
 

 
 
 


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