ウスビ・サコ先生 インタビュー
「空間は壁で仕切った箱ではありません」
空間をつくる人間の行動とコミュニティを研究する「空間人類学」
西アフリカのマリ共和国出身のウスビ・サコ先生は、日本語はもちろん関西弁までもたくみにあやつる話術の達人。周囲の人たちを笑わせることが得意で、世界中を旅して見聞したこと、研究のなかで発見したことをいきいきと話してくれます。今回は、サコ先生の「空間人類学」という研究テーマのお話を中心に、サコ先生の考えるグローバルなものの見方についてなども聞かせていただきました。
Q.先生の研究テーマは何ですか?
A.「空間を作るのは壁じゃなくて人間の動きなんです」
人の動きやコミュニティのあり方から空間を考察する「空間人類学」を研究しています。
たとえば学校の教室は、どうして教室として機能していると思いますか? 壁で囲まれた空間を「教室」と名付けただけでは、そこは教室にはなりません。生徒が勉強するための机や椅子、先生が立つ教壇が用意されて、授業が行われてはじめて教室として機能するわけです。
近代的な価値観では、建築は「1空間に1機能」だと考えます。でも、昔の日本の家では、ちゃぶ台を出せばお茶の間、片付けて布団を敷けば寝室。人の行動とそのための道具によって空間を形成して、ひとつの部屋に複数の機能を持たせていたんですね。そういった例は、私の祖国・マリの集合住宅における中庭にも見ることができます。
みなさんも、多くの人が共有する空間をよく観察してみてください。たとえば、京都の街なかの道に注目しましょう。京都では、家の前の道を掃く「門掃き」をして、最後に水を撒く「打ち水」をします。この打ち水をする範囲が、隣家の前の道まで重なる場合と、重ならない場合があるんです。そこで、打ち水の範囲を計測してみると、重なりが多いほうが地域の人間関係がうまくいっていることがわかったんですね。
身近な暮らしの空間、人々のコミュニティから教えられることは本当にたくさんあります。人の関わりかたや行動に目を向けていくと、空間は固定されたものではなくダイナミズムがあり、有機的なものだという視点が生まれてくるのです。