講演会「いま世界で何が起こっているのか?──シリア、ヨーロッパそして日本──」

2016/06/09

◉破壊されたコミュニティは取り戻せない

続いて、玉本さんが紹介したのはイラク北西部のまち、シンジャル。住民の多くは、クルド系の少数宗教ヤズディ教徒で、孔雀天使を信仰の対象とすることなどから、過去にもアルカイダなどのイスラム過激派から「シェイタン(悪魔崇拝)」とみなされ、迫害されたそうです。玉本さんは10年前からヤズディの人たちを取材してきました。
 
このシンジャル一帯を、ISが襲撃したのは2014年8月のことでした。玉本さんは、ここで暮らす友人たちから「ISが攻めてきた。助けて」と連絡を受けて事態を知りました。
 

玉本:ISの戦闘員は、まず住民を男性と女性に分け、男性には『イスラム教に改宗しろ』と迫りました。ほとんどが拒み、銃殺されました。女性や子どもは戦利品としてISの支配地域に連行され、女性たちは強制結婚をさせられました。

 
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ISの襲撃から逃れることができた十数万人の住民は、隣のクルド自治区に逃れました。玉本さんは、襲撃の翌月に再びイラクに飛び、彼らの避難先を取材。傷ついたヤズディの女性たちに出会います。
 
ISの解釈では、男女は結婚せずに性関係を持つことはできません。そのためIS戦闘員は気に入った女性を捕まえると形だけの“結婚”を強制したのです。しかし、行われているのは言うまでもなくレイプです。
 

玉本:IS戦闘員には「女性奴隷の扱い方」なるパンフレットまで配られています。

 
強制結婚から命がけで脱出したヤズディ教徒の女性は「ISに夫を殺され、自分はレイプされた。イスラム教徒の人たちは信用できない」と話したそうです。ISがまちから撤退し、故郷に帰れたとしても、もう近隣のイスラム教徒とは共存できない、と。
 

玉本:戦闘で破壊されるのは家やまちだけではありません。宗教や宗派、民族が違う人々が共に暮らしていた、これまでのコミュニティも破壊されてしまうのです。一度このようなことが起きてしまうと、破壊されたコミュニティは簡単には取り戻せません。
 
ただ、理解してほしいのは、ISは極端な過激主義で、あの組織をもってイスラム教と思わないほしいということです。オウム真理教をもって、仏教とはああいう宗教だとは日本で誰も思わないのと同じです。イラク・シリアのイスラム教徒は、ISの暴力と恐怖に苦しんでいます。また、ISに拉致されたヤズディ教徒の救出を手助けしたイスラム教徒や地元住民もたくさんいます。ゆえに、ISをもって「イスラムは怖い」という偏見を持つべきではないと思います。

 


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