京都精華大学 教育後援会 Kyoto Seika University Parents Association

2017.11.28

  • 活動報告

[懇親事業]「伝統木版画の表現力と可能性―浮世絵からアニメまで―」に関する講演会を開催しました

11月3日に2017年度の懇親事業を開催しました。教育後援会の懇親事業は、会員間の親睦を深めることを目的に、年に1回開催しております。今年は、近年好評をいただいている京都の伝統工芸に関するテーマより、「伝統木版画の表現力と可能性―浮世絵からアニメまで―」に関する講演会を開催しました。

講師は竹中木版五代目摺師で木版画作家、竹笹堂代表取締役兼クリエイティブディレクターの竹中健司さん。聞き手は本学人文学部の卒業生で、2017年度4月から本学伝統産業イノベーションセンター教員に就任した工芸ジャーナリスト米原有二さんが務めました。

まず米原さんから竹中さんに関する簡単な紹介があった後、竹中さんが出演されたテレビ番組を見て頂きました。京都では“現代アート”、フランスに招かれた際には“伝統文化”、という全く異なる2つの面に摺師として向き合う姿や、竹中木版四代目で実父でもある竹中清八さんに教えを乞う姿に、会場が引き込まれていました。

続いて、竹中さんから木版印刷の歴史についての説明がありました。
仏教の経典を大量に刷ったのが始まりだという木版印刷。そこからどんなに時代が流れても、摺師の仕事や木版印刷の技術そのものに大きな変化はなく、むしろその目的が変化しているとのことでした。

具体的には、経典のように文字だけが連なっていた時代に始まり、中世になると徐々に文字から本の挿絵などの絵にシフトしていったこと。また、色づき始めは高級だった刷り物ですが、鎌倉時代には複製が広がり、江戸時代になると、一般大衆に向けた大量印刷になっていったことなど、摺師の仕事内容の変化が語られました。

「浮世絵の有名な作品として葛飾北斎の名前がよく挙がり、北斎の愛した藍、北斎ブルーなどと語られることが多くありますが、実際には北斎は輪郭線を描いただけです。その輪郭線をもとに版を作った彫師がいて、色付けをして紙に刷った摺師がいます。当時は色の種類をそう多くは選べなかったこともあり、北斎が細かく色を指定した可能性は極めて低いのです。また、北斎の絵は使用している色が少なく、『ぼかし』も少ないので短時間で大量に刷ることが出来ます。大量に流通したことは北斎の評価が高い理由の1つではないでしょうか。」と、普段あまり聞くことのできない興味深いお話が出る度に、会場からは驚きの声が上がりました。

また、あまり公には言えませんが、と前置きした上で、「昔は『下の毛が彫れて一人前』という言葉があったぐらい、春画には彫師・摺師ともに素晴らしく細かい仕事が詰まっています。特にお殿様に見せる春画には、物凄く高等な技術が使われていて、色だけ見ても一般的な浮世絵には10色程度しか使われていないにも関わらず、50色にも及ぶ色が使われていました。これを摺るのは並大抵の仕事ではありません。」と、普段聞けない裏話も語られました。

中盤、米原さんに伝統工芸の未来について聞かれると、「伝統工芸の未来は明るいと思います。世の中のイメージとして、伝統工芸の未来は暗いように感じてしまいがちですが、そうではありません。今だからこそのチャンスがそこにはある。産業技術が普及する中で、伝統木版は多くの国で失われてしまいましたが、日本はいまだに残っている非常に珍しい国です。残っているということは、まだまだ必要とされている証拠です。」と語られました。

終盤の質疑応答では、「版元の板はどれぐらい使い続けることが出来るのか」という質問に、「ちゃんとした保存状態で保管していれば、何百年でも何千年でも使い続けることが出来ます。」と答えられ、会場は驚きに包まれました。
また、「多色刷りでは、途中や最後の版でズレたりして失敗することはないのか」との質問には、「多色刷りで100枚刷る場合、110枚ほど用意するのが普通ですが、当初は(第1版を)200枚刷って、10枚しか完成させることが出来ませんでした。今は110枚で105、6枚は完成出来るようになりましたが、必要なのは天才的な才能ではありません。まずは刷ることです。そうやって学んできました。これは新人も同じです。まずは刷らせます。出来なくてもひたすら刷らせて、そのまま3年ぐらい過ぎていくと、いつの間にか出来るようになっています。これは伝統工芸だけではなく、普通の仕事でも一緒ではないでしょうか。」と答えられました。

実際に、松本零士さんや、モンキー・パンチさんのアニメ作品を浮世絵で表現している竹中さん。木版が昔はメディア産業だったように、現代的な仕事と言われるアニメ制作も同じメディア産業だと言います。アニメ関係者も摺師も、関わってみると垣根はなく同じ職人であり、似たような仕事をしていると感じたそうです。伝統工芸とアニメという一見全く異なる2つは、『職人』と『メディア』という2つのキーワードで結ばれ、それぞれに携わる職人によって支えられていることがわかりました。

最後に、木版画の実演が行われました。実際に『摺り』の作業工程を間近で見ることができ、この会一番の盛り上がりとなりました。

ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。来年度の懇親事業もみなさんの興味・関心に応えるテーマで企画したいと考えております。ご意見・ご要望がございましたら事務局までお寄せください。

※当日は、ルパン三世や宇宙戦艦ヤマトなどの浮世絵作品も展示いたしましたが、版権の関係上、ウェブサイトでの写真掲載は控えさせて頂きます。