研究プロジェクト Research Project

廃寺後の祭祀と伝統仏教の変質とその社会的意義の研究―口述の生活史の分析から

基盤研究(C) 
研究期間:2021−2023年度

特別研究員 山本 哲司

研究の目的

この研究は、伝統仏教寺院の廃寺の経緯とその後の展開について、ライフヒストリー・インタビューの語りの分析を通じて、寺院/祭祀の継承の課題とその社会的意味を問うことを目的としています。
 地域に根ざし、家族の祭祀を支えてきた伝統仏教寺院は、年々減少しています。しかし寺院の「減少」や「消滅」の実情を示す質的な研究は少なく、廃寺のその後に関する学術的研究はほとんど見られません。本研究は、寺院関係者たちの経験する廃寺のその後の社会関係と宗教生活の変容に注目します。

研究の方法

この研究の対象は、日本最大の伝統仏教宗派、浄土真宗本願寺派に属す廃寺寺院の住職とその家族ならびに門信徒です。
「廃寺」の現象は、過疎化の問題と強い関連がありますが、しかし「廃寺」といっても、祭祀に象徴される信仰や宗教活動が消滅するわけではありません。多くの廃寺となった地域では、人々の祭祀を維持するさまざまな活動が行われています。
一方で、廃寺後、寺院活動や宗教活動そのものから離れる方や、新たな地域で一から伝道活動を立ち上げる方など、廃寺寺院寺族たちのさまざまな姿があります。
この研究では、各々のライフヒストリー・インタビューから、宗教の役割や意味付けを廃寺後の暮らしにどのように見出すことになるのか、経験を意義づけるプロセスを検討していきます。本研究は、マイナスイメージの強い「廃寺」の現象について、その後の人々の経験に迫ることによって、生産的な側面の可能性を探ることをささやかな目的としています。

研究の展望

廃寺のプロセスやとりわけ廃寺後の状況について、伝統仏教の教団組織においても具体的で詳細な情報はまとめられていません。この研究では、集中的なインタビュー調査を行うことで、以下の知見を得ることを目指しています。宗教活動ならびに伝道に関する知見として、①廃寺に至るプロセスそのもの(さまざまな課題や障害の整理)、②廃寺後の”寺院継承”のあり方、③廃寺後の祭祀・信仰の継承の状況について情報を整理します。また、経験が意識へ与える影響として、①門徒の宗教行動と宗教意識への廃寺の影響、②住職家族の生活観・宗教観への廃寺の影響が考察されます。たとえば、廃寺という現象は、代々の家族・地域生活を通じて“寺院と共に在ること””住を重んじ、地域と共に在ること”を信仰や伝道の本分として培ってきた伝統的な「住職」の精神性からすると、その予兆に常にさらされながらも、直視し難い現象です。それゆえに、廃寺のその後の研究は、住職の伝統的な信仰と伝道の精神性を現代社会においていかに再構築するかという問いを内包します。