*講演テキストは、あくまで通訳をまとめたものです。
チョムスキー氏のオリジナル・スピーチを翻訳したものではありませんので、ご了承ください。
第二次世界大戦前のアメリカで、政府が先導し、資金を与える研究のもっとも大きな部分は、主として大学での農業研究でした。それが採算の合う結果をもたらすのは何年も後になってからですが、生物学と化学の研究の進歩に基づいて、1940年以降の農業生産性はたいへん大きく増加・増大し、結果が現れました。
途方もない成長を経験して、システム全体が根本的に変化したのは第二次世界大戦後のことです。
合衆国の軍事体制がコンピューター制御の工作機械、あるいはその他のオートメーションの開発を引き受け、特定の狙いのもとに開発設計を進めました。
その狙いというのは、テクノロジーに内在する問題ではなく、いくつもの重要な研究が示しているように、労働者から熟練を奪って経営管理を増やすということでした。
国家が管理運営する部門で設計・開発・調達が行なわれ、それが非常に長い期間続いた後、開発されたものが私企業に手渡されます。これが利益を産んで、また労働力・労働者を非常に効果的にコントロールするということになりました。
コンピューターやエレクトロニクス一般、電気通信、情報テクノロジー、航空機産業、その他いろいろな分野についても、まったく同じことを言うことができます。
先進産業経済についての最近の主要な研究によると、軍事プログラムは産業計画の第一、そして最大の演習であり、ペンタゴン(国防総省)に意思決定を委ねています。
通常、大学がそのプロセスの中心にありますが、ペンタゴンからの研究助成が冷戦時代の水準を今でも維持し、さらにそれが上昇しつつある理由には、このような背景があります。
急速に成長するバイオテクノロジー産業も国家と大学の複合体によって開発され、さきほどとは別の部門が関わっていますが、そのたどっているコースは同じです。
バイオテクノロジーの開発においては、公共の福祉や福利、それから権力・利益の推進力という二つの目的が食い違い、これをいささか露骨に示すことがあります。
わずか数ヵ月前のことですが、農務省と一つの私企業がターミネーター・テクノロジーと呼ばれるものを開発して、特許を取得しました。これは種子の遺伝子を変更する技術ですが、作物に種子を作らせないようにするものです。そして、特許申請後の数週間のうちに、その私企業はモンサント社という大企業に買収されてしまいました。この大企業は世界最大の種子・農薬・薬品・獣医薬品のメーカーで、マーケットにたいへん大きな勢力を持っています。
この出来事は危険な結末を招くだろうと、多くの科学者と農業経済学者が予測しています。農業をしている人たちは、伝統的な方法で種蒔きをするための種子を手に入れることができなくなります。貧しい農民が排除され、いなくなってしまう。大規模な貧困が発生し、非常に多くの人たちが食料供給を受けられなくなるような事態が起きるだろう。普通に出回っている食料のなかに有毒なものが混入する危険性がある。農業の改良が制約を受けることになるだろう。作物の多様性が制約されることになるだろう。その他、いろいろな心配が出ています。
最近、ハーバード大学の有名な進化論学者がこの開発を次のように言いました。
「国家が私有財産の利潤を支援して、いかなる公共の利益をも排除する。そういう事例のなかで、もっともずうずうしいケースである」
実際、彼やその他の科学者が論じているように、おそらく深刻な被害を公衆が受けることになると思います。
現在の経済がどのように動いているかということについて、非常に重要で、かつ明白な例がインターネットです。インターネットはアメリカのたくましい個人主義、それから実業家精神の勝利であると広く賞賛されています。
インターネットは、ほぼ30年前にスイスのジュネーブにある欧州合同原子核研究機関(CERN)から決定的な貢献があったことに加えて、ほとんどが合衆国の国家部門、主としてペンタゴンのなかで計画されて開発されたものです。企業の参加もありましたが、その企業はほとんど連邦政府からの資金援助を通じて参加しました。大学は、そのなかのあらゆるところでイニシアティブを発揮しました。
このインターネットのシステムは1995年に民間部門に手渡されて、現在はご覧のように膨大な利益の源泉として期待されています。
しかしながらインターネットには、大きな問題が残されています。主として信頼性、それから機密保護に関する問題です。
ペンタゴン主導による政府と民間企業の合同研究が最近あり、「信頼性と機密保護についての研究はあまりにも長期の問題となり、関係会社にはリスクが大きい。従って連邦政府の支援を仰がねばならない。」という結論に達したそうです。
連邦政府の支援というのは結局のところ、一般公衆からの支援を意味しています。しかし、一般公衆は何を知ることもない。そして大学がいつものように研究とトレーニングの両方を引き受けて、その経費は公衆が負担する。こういうことになっています。
国家部門と産業界や大学の複合開発・研究はこれまで、社会的に有用な決定であったかもしれません。あるいはそうでないかもしれません。そのどっちであっても、決定するのは一般公衆ではないということが重要です。
一般公衆は単に従っていればよくて、事柄はすべて機密のベールの下で進行しています。公衆のあり様や生活のあり様、あるいはその質にたいへん大きな影響を持つ分野としては、インターネット以外に貿易協定などがありますが、いつの場合でも一般公衆は知りえません。
学問的な世界でも時に事実は明晰に論じられることがあります。
ハーバード大学にはサイエンス・オブ・ガバメント(日本語で言うと行政学?)という学問があり、アメリカ政治についての研究では高く評価されています。そこの教授はこう言いました。
「権力の設計者がつくりだす力は、感じられるが目には見えないものでなければならない。権力は暗がりにある時は強いが、太陽の光にさらされれば蒸発してしまう。」
またこの教授は、レーガン政権が軍備拡張を行なった際、今度はさきほどの教訓を使ってこう言いました。
「諸君は軍事介入やその他の軍事行動を売り込むとき、戦っている相手はソ連であるというまちがった印象をつくりだすようにしたほうがよい。それがトルーマン・ドクトリンからこのかた、我々合衆国がやってきたことだ。」
公衆を無知、あるいは無関心のまま置いておくために、政策についても嘘をつくだけではなく、本当の設計者を公衆の目から隠したり、あるいは触れないようにすることが必要です。もちろん本当の設計者が詳しく調べられたりしてはいけませんが…。
権力を持っている人の立場からすれば、これが大学、また一般的な知識人の背負わなければいけない課題ということになります。
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