loading...
DSC1688

Music

微分音オルガンが可能にした
「耳で作る」音楽へのこだわり
冷水ひとみ(作曲家/微分音研究家)

映像にピッタリ合う音をつけるだけでは、本当の正解ではない

映像に音楽をつけることについてもお伺いします。個人的に、冷水さんの音楽に初めて接したのは、NHKで放送された山村浩二さんのアニメーション『パクシ』や『カロとピヨブプト』でした。このときは先に映像があってそこに音をつけたのですか。

冷水 尺(時間)はちょっと変わるかもしれないという仮編集の映像と、絵コンテをもらっていたと思います。絵コンテに秒数が書いてありますから、計算して曲の時間を割り出します。山村さんは音楽のイメージを非常にはっきり持たれている監督さんですから、指示も明確です。監督さんによって、そのイメージを共有できる人とできない人がいるんですが、山村さんとはまったく問題なく、ポン、ポン、ポンといきます。たまに解釈を間違えていると、デモ段階ですぐに電話がかかってきて、話を聞くとどういうことかわかりますから、それで直していきます。山村さんとのやり取りは、とても簡単ですね。

あくまで映像に必要な演出のために音楽を作るという関係だったのでしょうか。それとも、もっと踏み込んだ部分もあったのですか。

冷水 ただ映像に合うものを作るだけでは不十分で、「合うもの以上」でなければいけないと思います。ピッタリ合うだけでは、本当の正解ではない。そこに何か“破れ”を作ることで、幅が広がることがあります。
例えば、『頭山』では、山村さんは浪曲師の国本武春さんにナレーションだけを頼みたかったらしいんですけれど、でも彼は「三味線を弾かないと調子が出ないんですよ」と。

では、国本さんの三味線も入った状態からのお仕事だったのですね。

冷水 「実はこうなっちゃったんです」と説明を受けて「もう完璧じゃないですか」とびっくりしました。その上でさらに音楽が必要だとなったときに、何ができるか。私には、ファッションでいう“ドレスダウン”のように、ピチっとした服だけれどもボタンを3つ外しちゃうみたいな、破壊的な要素を少し持ち込んでいきたいという気持ちがあります。

『頭山』© Yamamura Animation

クライマックスの場面では、三味線とシンクロするようにオルガンとバイオリンの音が入ってきます。

冷水 三味線も完尺(映像とタイミングが揃った状態)で入っていましたから、それに合わせて作っていきました。録音上で共演するみたいな感じですね。

その後も映画やドラマの仕事を数多くされていますが、取り組み方に違いはありますか。

冷水 映像ができていて音楽をつけるのと、そうじゃないのとでは、私にとってはすごく違います。前者はアンサンブルみたいなものですから、非常に楽しいし、やりやすいんです。
そうじゃない場合は、監督からいただくキーワードと尺をもとに音楽を作ります。でも、いつも私が知りたいのは、画面の明るさとか、色とか、屋外か屋内なのかといったことです。空気感というんですかね。それは言葉だけじゃわからないので、写真を見せてくださいと言います。
音楽のつけ方にも何通りかあって、この人の内面を表現しようと思うときと、「暑い寒い、明るい暗い」のような外側、空気感を表現しようというときがあります。あるいは、もっと抽象的というか哲学的なところまで踏み込むか。ストップモーション(コマ撮り)によるアニメーションの音楽もやりましたが、お人形さんは表情が変わらないから、ちょっと説明してあげないとわからない部分もあったりするんです。

人形に音をつけることで内面が発生したりもするわけですね。

冷水 音楽で意味を持たせることもできるし、持たせたくない場合もある。「この人が転んだよ」という表現を効果音だけじゃなく、音楽でもやりたい場合と、やりたくない場合があるわけです。

いまの京都に感じる、音楽の街としての“気配”

現在は京都にお住まいですが、東京から仕事を受けるにあたって問題になることはありますか。

冷水 今はSkypeで打ち合わせできるし、音源もメールですぐ送れるじゃないですか。だから、もう問題ないですね。一番大変なのは、レコーディングのために向こうに行かなきゃいけないこと。前日に何か変えてくれって言われたりすると大変ですね。

京都で音楽活動をすることについては、どのように意識されていますか。

冷水 ここ1、2年で、いろいろなミュージシャンが結構京都に住み始めているんです。「他の人もいっぱい来ているよ、何かやろうよ」みたいに言われて楽しくなってきましたね。東京じゃなくてもいいという時代に、ちょっと変わったんだと思います。以前は東京を離れるというと「もう脱落して田舎暮らしになるんだ」という感じでしたが、特に震災以降はそうでもなくて。
東京は特殊な人がいっぱいいるから、特殊なことをやるのには楽なんです。だから、やっぱり人口の少なさは辛いところですけれど。逆に言えば、その小さいスケールのなかで、何かを凝縮して場を形成することはできるかもしれないですよね。いまの京都には、少しそういう気配があるなという気はしています。

インタビュー後記/谷口文和(京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 音楽コース教員)

映像との関係を通じて“音の表現”を探求する

20世紀なかば、当時の新しいテクノロジーだった電子音を用いた作曲が試みられるようになった当初、耳慣れない響きを聴いた人々の多くは、それを“音楽”だと感じませんでした。その一方で、同様の響きが、映画における効果音や心理描写として早くに浸透しました。現実にないものも描ける映像表現は、先進的な音楽との相性も良かったといえます。
微分音オルガンを通じて音の響きにこだわってきた冷水さんは、映像の世界でもそのスタイルを存分に発揮してきました。冷水さんのお話にあるように、やり方次第で音は映像にさまざまな意味を与えることができます。ゲームやプロモーションビデオなどのかたちで映像と音楽の関係がより密接になっている現在、その関係から音楽をとらえなおすことで、音楽の表現手法もさらに深まるでしょう。

image013
録音した物音を編集して音響作品を制作

京都精華大学で「映像のための音楽」を学ぶ
京都精華大学の音楽コースでは、音楽を作るだけでなく世の中に広めることも含めた総合的な視点から、音楽の“これから”と向き合うことを目指しています。
  • ①実践的な作曲指導
    音楽理論を基礎から理解した上で、映像やアニメーションの音楽を手がける作曲家の指導のもと、実際に映像に音楽をつける課題に取り組みます。映像やゲームを専攻する学生とのコラボレーションに発展することも。
  • ②音の響きにこだわった音楽制作
    メロディやハーモニーの作曲にとどまらない、音の響き全体を自分の手でコントロールする方法を実習します。自分で録音した楽器音や物音をコンピュータ上で加工するなど、「自分の音」を発見するためのさまざまな表現方法を追求できます。
  • ③映像と音の関係を複合的に学ぶ講義・演習科目
    映像と音の関係を歴史的・理論的に解説する講義を通じて、仕事に必要な発想や手法を学びます。映像制作ソフトAdobe Premiereの操作など、映像編集の技法をみずから習得することもできます。
音楽コースのカリキュラム
実習
1年 つくる実習 (すべて必修) 届ける実習 (必修)
楽曲制作 / 録音 / 音楽分析 メディアを使った情報発信
2年 つくる実習 (クラス選択) 届ける実習 (必修)
(A) ソングライティング
(B) スタジオワーク
(C) DTM
音源リリース
ライブ・ワークショップ企画
イベント広報
3年 実習 (2クラスを選択)
ソングライティング / スタジオワーク / トラックメイキング / インタラクティブ表現 / 映像と音楽 / アーティストプロデュース / 音楽と言葉 / 音楽ビジネス
4年 卒業制作
演習

スキルを身につける
ボイス&リズムトレーニング
グラフィックソフト
エディトリアル
映像 / 写真
ウェブデザイン
プレゼンテーション
インタラクション など

専門性を深める
ミキシング
著作権ビジネス
音楽マーケティング
リズムアンサンブル
ライブPA / 批評・編集
グラフィックデザイン
ソーシャルデザイン など

講義

コース専門科目
ポピュラー音楽史
サウンドデザイン概論
民族音楽学
音楽理論・楽曲分析
作品作家研究
音響論 など

学部開講科目
文化産業概論
批評論 / 美学
メディア論
身体表現論
視聴覚表現論
広告文化論 など
※他学部開講科目も履修可能

前半の2年間の実習では、希望進路に関係なく全員が、音楽を“つくる”だけでなく“届ける”ことを学びます。3年次の実習では内容が専門化され、自分の目指す方向や身につけたいスキルに合わせてクラスを選択します。それと並行して、興味の幅を広げたり、やりたい仕事に必要なスキルを身につけたりするための講義・演習科目を履修します。そして4年次の卒業制作では、自分の決めたテーマにもとづいて作品制作やイベント企画、論文執筆などに取り組みます。

LINEで送る

HOME