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Music

“ネット発”のボーカロイドにも
身体性を持たせなければならない
kz(音楽プロデューサー)

2000年代後半、“歌”をめぐる状況を大きく変える二つの社会現象がありました。「YouTube」や「ニコニコ動画」といった動画共有サイトとともに、「音楽はまずネットで触れるもの」という考え方が定着しました。そして、2007年に発売された音楽制作ソフト「初音ミク」のヒットにはじまるボーカロイドのブームにより、架空のキャラクターの歌が、いまや実在する歌手に匹敵する人気を得ています。
ボーカロイドとネットを使えば、誰でも自分の歌を発信できる時代。しかし、無数に曲が溢れるなかで認められ、仕事として音楽を作ることには、以前とは別の難しさがあるとも言えます。そこで、初音ミクの曲で最も早くにメジャーデビューを果たし、インターネットブラウザ「Google Chrome」のCM曲も手掛けたkzさんに、ネットを使った音楽活動や、ボーカロイド曲と人が歌う曲との違いをめぐって、重視しているポイントを語っていただきました。

取材=谷口文和(京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 音楽コース教員)

kz ケーゼット
音楽プロデューサー、livetune主宰。2007年にボーカロイド「初音ミク」の歌唱による「Packaged」がネット上で大ブレイクし、2008年8月に1stアルバム『Re:package』でメジャーデビュー。2011年には「Google Chrome」のCM曲「Tell Your World」が話題となり、海外からも高い評価を受けた。また2015年にはボーカリストに「やのあんな」を迎えたライブユニット「livetune+」が始動。
kz-livetune SoundCloud
livetune
livetune+ Official website

『Tell Your World』
illustration by mebae
© Crypton Future Media, INC.
piapro
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© FANTASISTAUTAMARO ALL RIGHTS RESERVED.

世の中の人が“しっくりくる”音楽を追求する

kzさんは2007年に初音ミクを使用した楽曲「Packaged」で注目を集め、翌年にメジャーデビューを飾っています。どういうきっかけがあったのでしょうか。

kz 当時、僕は音大で音響合成とアルゴリズム作曲(コンピュータプログラムを使って曲を生成する方法)を専攻していました。学校で一般的な作曲の技法を学んだことはありませんが、自分でポップスも作って自主制作のCDを出したり、ライブハウスを借りてイベントを企画したりと、学校と関係ないところで音楽活動をしていたんです。大学で学ぶことはたくさんありますが、それが100%だと思ってしまうと可能性は広がらないので、50%くらいでしかないと考えたほうがいいと思います。
デビューのきっかけはそれとはまた別で、本当に偶然でした。たまたまボーカロイドが出てきて、たまたま人間の声を機械っぽくする「オートチューン」という好きなエフェクトがあり、それを使ったら面白いかなと思ってたまたま使った作品がたまたまニコニコ動画で支持を得て。その後、ビクターさんから声をかけていただきCDをリリースと、ほぼ運だけで来たようなものなんです。

オートチューン
ボーカルの音程がずれた箇所を補正するコンピュータソフト。強くかけると声が不自然に変質してしまうが、それを逆手にとって機械的な歌声を作るという使用法が広まった。

世に出るきっかけは運の要素が大きかったかもしれませんが、自分の作品が多くの人に受け入れられることは考えていなかったのですか。

kz ここまで評価されるとは完全に予想外でしたが、他人の作品を聴いていて「自分がこの世界に参加しても、それほど評価は低くならないだろう」という気持ちはありました。
Jポップしか聴かない人の作った曲は、Jポップしか聴かないんだろうなという曲になりますし、洋楽しか聴かない人の曲は、やっぱり洋楽っぽい曲になります。両方聴いている人の曲は、両方の良いところが抽出されて優れた曲になるんです。そのあたりのバックボーンはすごく分かります。
そうした音楽を聴いた上で、「自分の実力は結構いけてるんではないか」という根拠のない自信はありました。自信のない作品は、その自信のなさが聴き手に伝わるものなので、自分でも「これだ!」と思える作品のほうが支持を得ることが多いですね。

「これだ!」という音楽は、どうすれば引き出せるのでしょうか。

kz “しっくりくる”という感覚がすごく重要だと考えています。例えば、「Jポップしか聴かない人たちにはどういうものがしっくりくるのか」で線引きをして「このライン内なら何をやっても大丈夫」という感覚が身につくと、作曲の自由度が広がっていきます。何が世の中や自分にしっくりくるのかを追求する作業は、これからも延々と続くと思います。
ネットで流れている音楽には「どうしてこの人はこれを作ったんだろう」というフワッとした曲がたくさんあります。その人なりの考えがあったかもれませんが、もっと考えている人の曲と比べて強度が弱いというか、やはりフワッとしたものしか伝わらない。
逆に、最近「これだ!」と思ったのは、田中秀和くんが作った、『アイドルマスターシンデレラガールズ』というアニメのオープニング曲「Star!!」です。田中くんが所属するMONACAという音楽制作会社には僕も大好きな神前暁さんという天才がいるんですが、田中くんは、先輩の神前さんが先に作った『アイドルマスター』のオープニング「Ready!!」の上を目指そうと、ものすごく考えたと思うんですよ。本人は否定するかもしれませんが、「なんとかして神前暁という存在に対抗しよう」という気迫が曲に溢れているのが僕には感じられました。だからその曲にはものすごく強いイメージがあるんです。

ネットから出なければ人の感情は引きつけられない

2000年代後半からは「ネットで発信し、メジャーに進出する」というルートが注目されています。kzさんはそのなかでも最初期に認められてきたわけですが、“ネット発”という考え方が定着した現在、そのことをどう考えますか。

kz ネットでの活動は誰でもできるからこそ、より強い人だけが残っていくと思います。プロでやっていくのならば、マーケティングの能力も必要だとすごく感じるんです。ネットでは自分ができないことは誰かの協力が必要だったりして、ビジネスとしてはより難しくなってきています。

「ネットでは何でもタダ」という価値観も根強いように思います。

kz ネットは「コンテンツにお金を払う」という概念が曖昧な場所です。しかし仕事として考えるのであれば、無料で公開した動画を再生してくれた人たちから、いかに気持ちよく対価を出してもらえるかを考える必要があります。例えば、SEKAI NO OWARIのライブではすごいセットを組んでいて、それだけでもお金を払いたくなると思うんです。お金を払う人も、セットを作る人も、みんな満足して不幸せな人がいないという、本当によいビジネスだと感じます。
自分が人前に出なくてもネットで人気を得ることはできますが、そこを飛び越えてメジャーなマーケットに進出するなら、身体的な部分を出さないとダメだと思います。直接話すのも身体的なことですし、ライブのパフォーマンスにも身体的な表現の説得力を感じます。

kzさんはダンスミュージックでも活動していますが、電子音によるダンスミュージックは楽器を演奏しなくても打ち込みで作れます。ボーカロイドも、歌や演奏といった身体的要素を伴わない音楽の最たるものだと言えます。しかし一方では、ボーカロイドのライブという発想も出てきました。身体性の重要さは、ネットを通じて改めて見えてきたことでもありますよね。EDMのシーンを見ていてもそれを強く感じます。

EDM
「エレクトロニック・ダンス・ミュージック」の略。大型のフェスティバルが多数開催されており、フェスの模様を撮影した動画がネットで積極的に公開されていることも特徴のひとつ。

kz ボーカロイドのライブで出すのは映像ですが、その場があるだけで身体性は備わるものです。ダンスミュージックも極端に言えば指先一つで作れますが、よいダンスミュージックになるかどうかは、本人の身体的なセンスによります。クラブに行くと、「こういう音だとみんな踊るのか、こう盛り上げるとみんな手を上げるのか」など、分かることがたくさんあります。それが理解できれば、たとえ踊れなくても曲は作れると思うんです。
EDMは、ツールとしてインターネットを使っているのがいいですね。「ネットをやっている人たちの音楽」ということではなくて、「EDMを広めるためにYouTubeやInstagramやTwitterで共有してみんなで楽しもうよ」というスタンスがちょうどいいと思います。“ネット発”の代表であるマルチネレコーズの人たちも、とにかくイベントをたくさん企画して、外に出て活動しているから説得力がある。みんなネットを主戦場にはしていますが、ネットに密着しているのではなく、ちょうど良い距離感を保ちながら活動しています。
その距離感の取り方を間違えるようなことが、これから増えるのではないかとも思います。ネットから出なければ人の感情をひきつけられないということが、次第に見えづらくなってきたと感じるんです。ネット配信だけのような状況になってくると、どんどん身体性が失われてしまう。そうなると、本当にフワッとした作品ばかりになってしまうのではないかと。

マルチネレコーズ
ウェブサイトから楽曲の音源を無料でダウンロードできるようにしている“ネットレーベル”のひとつ。メジャーデビュー前のtofubeatsなど多数のアーティストが作品を発表している。
マルチネレコーズ

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