loading...
img_m01_top1

Music

CDが売れない時代、
レーベルに何ができるのか。
河野章宏(残響レコード代表取締役)

音楽を世の中に届けていく仕事の一つに“レーベル”の運営があります。メジャーレーベルからデビューしてヒット曲を出すことは、アーティストにとっては長らく大きな目標となっていました。しかし、音楽の主な発信方法がCDからインターネットへと移行している現在、CDをたくさん売るというビジネスモデルは成り立ちにくくなっています。
音楽ビジネスが大きく変わっていくなかで、新しいレーベルのあり方をいち早く提示してきたのが「残響レコード」です。社長でありみずからもミュージシャンとして活動する河野章宏さんに、レーベルの役割や音楽を届けるために意識すべきことについて、お話を伺いました。

取材=谷口文和(京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 音楽コース教員)

河野章宏 こうの・あきひろ
ギタリスト、「残響レコード」代表。岡山県出身。2004年にロックバンドtéを結成。同じ年に「残響レコード」を立ち上げ、バンド活動と社長業を両立させる。ポストロック/エレクトロニカのジャンルをメインに若手バンドに活躍の場を与え、これまでに9mm Parabellum Bullet、People In The Boxなど人気バンドを輩出した。2009年からはライブイベント「残響祭」を開催するなど、CDのリリースに留まらない展開を見せている。著書に『音楽ビジネス革命 ―― 残響レコードの挑戦』(ヤマハミュージックメディア)。
残響レコード

『Talky Organs』
People In The Box

レーベルは音楽に“信頼”を与える

ご自身がtéというバンドで活動するだけでなく、2004年に残響レコードを立ち上げようと考えたのはどうしてでしょうか。

河野 自分のCDを出すにあたって、ただの自主制作ではなく、どこかのレーベルから出ているように見せたかった、というのが大きかったですね。自主制作は自分たちで頑張って作りましたというものです。でもレーベルからのリリースということにすれば、他人に評価されてCDを出せたことにできるので。
それと、もともと僕はレコード屋のオヤジになりたくて、店をやるにはお金がいるけど、レーベルなら始められると思ったんです。レーベルという存在自体が架空のものじゃないですか。例えば、ビクターエンタテインメントの「スピードスターレコーズ」は、「ビクターというレコード会社のなかにある架空のレコード会社」だと思うんです。そのように考えれば、レーベルはそう名乗ってしまうだけで作れるということに気づいたんですよ。

レコード会社という組織と“レーベル”がどう違うのかは、わかりにくいですよね。特に今は、音楽を発信するのにかならずしもCDを作らなくてもよくなっていますし。しかしだからこそ、「レーベルは何のためにあるのか」という本質的な部分が問われているように感じます。

河野 レーベルを動かすときにまず考えたのはブランディングです。ブランドとは基本的に“信頼”だと思っています。「このレーベルは質の高いものを作っている」という信頼を得ること、つまりブランディングができなければ、音楽は広がっていかないという感覚があります。海外に有力なインディーズ・レーベルがたくさんあるのを見て、日本には音楽でブランディングできている会社がないと気づいたんです。ブランドの信頼を得るためには、アーティストの質を落とさないことと、一本筋を通すことが必要です。

インディーズ・レーベル
全国規模の配給網などを備えた大手レコード会社(メジャー)と区別して、大きな資本を持たないレーベルのことを指す。日本では、日本レコード協会の会員社であるかどうかが、メジャーとインディーを分ける目安とされる。

レーベルとして質のいい音楽を提供することは、ミュージシャンが質のいい音楽を作ろうとすることとは別なのですか。

河野 僕が思う質の高い音楽というのは、「演奏がうまい」や「カッコいい」ではなく、「これまで世の中に存在しなかった」ということなんです。Mr.Childrenやサザンオールスターズみたいな音楽を作っても、本人には絶対に敵わない。でも、世の中に存在しなかった音楽を最初に作れば、それが最高レベルということになります。誰も見たことも聴いたこともないものって、ものすごく質が高く見えるんですよ。
そういう意味でも、音楽を作る上で大切なのは、音楽全体のマーケティング(求められる商品を作るための戦略)ができていること。自分たちがどんなポジションにいて、どんな質の音楽を作っているのか、という自意識がないと、人は認めてくれません。

それをミュージシャンが自分だけで自覚するのが難しいからこそ、レーベルに「信頼を与える/質を保証する」という役割があるわけですね。

河野 そのために必要なのは、徹底した教育です。うちの会社は毎月レコーディング・スタジオを借りてプリプロダクション作業を行い、こうしたらもっとよくなるということを話し合って、やっとそのレベルまで達したというところで初めてCDを作るんです。だから、最初にリリースする時点で、もうプロと同じレベルになっている。

プリプロダクション
本番のレコーディングの前に見本となる音源を作ること。作品の方向性を決める上で重要なプロセスとなる。

今は動画サイトなどもあって手軽に音楽を発表できるのに、レーベルの仕事が「簡単に作品を出さないこと」だというのは面白いですね。

時代とともに変わっていくレーベルのあり方

残響レコード自体がひとつのレーベルでありながら、所属アーティストの多くがメジャーのレコード会社からリリースしています。この関係をどう考えていますか。

河野 メジャーのほうが人も多いし、資金力も違う。タイアップもとっていただけたりするので、言ってみればメジャーは“広告代理店”だと考えています。唯一、僕らがメジャーと変わらないところは、音のクオリティだと思うんです。メジャーのスタジオを使って音源を作るなど、その部分には投資しているので。

タイアップ
リリースする曲を映画の主題歌にするなど、ある商品と別の商品を結びつけて、相互の宣伝効果をねらうこと。

日本のレコード産業の歴史では少数の大手レコード会社が市場を独占していた時代が非常に長いですが、1970年代には、自前のレコード製造工場を持たずに大手の工場を借りるレコード会社が出現するという転機がありました。これによって多様な音楽性をもつレーベルが出てくる土台ができました。今では音楽を制作する部分でも、新たな連携の仕方が見えてきたわけですね。

自前のレコード製造工場を持たずに大手の工場を借りるレコード会社
レコーディングなど音楽の“制作”の部分を中心に行い、レコード盤の“製造”は大手に委託するという業務形態をとることで、比較的小規模な体制でレコード会社を運営できるようになった。荒井由実やYMOを送り出したアルファレコードがその代表。

河野 うちは実際のところは「残響レコード」という名前を持ったプロダクション(音楽事務所)に近いです。アーティストにクオリティの教育をしていくには絶対お金が必要です。だから育成したアーティストをメジャーに送り込んで、規模を大きくすることで得たお金を新たなアーティストの育成に回す……という循環がいいやり方だと考えています。

「残響レコード」がメジャーと組んでいるということは、メジャーの側としても、規模が大きいために動きづらくなった部分を代わりにやってもらっているということですよね。音楽産業に携わる人と話をすると、レコード会社のなかで音楽がわかる人が減ってきたとよく言われます。その点で、河野さん自身の音楽経験が活かされているのですか。

河野 そうですね。まず僕が音楽オタクであるということが活きています。会社のみんなとも「こういうアーティストがいるよ」といった情報交換をします。インプットが多くないと、アウトプットもできませんから。自分の好きなアーティストを掘り下げて聴いたり、新しい音楽、古い音楽を取り入れたりして、自分の作品に昇華できているかどうかが大事です。

LINEで送る

HOME