loading...
DSC6909

Fashion

ファッション業界に欠けている
批評/ジャーナリズムを確立するために
芳之内史也(編集記者)

雑誌やWebメディアを通じて業界の出来事を伝える編集者、記者、ジャーナリストなども、ファッション業界の重要な仕事。芳之内史也さんはFASHIONSNAPの編集記者として、日々最先端の現場を取材し、記事を執筆しています。編集者と記者・ジャーナリストは、どんなところが違うのでしょうか? 芳之内さんはどんなところにおもしろさを見出しているのか、またファッション業界においてメディアが抱える問題点・課題についてうかがいました。

取材=蘆田裕史(京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 ファッションコース 教員)

芳之内史也 よしのうち・ふみや
編集記者。愛媛県出身。立命館大学経済学部卒業後、服飾系の専門学校に入学。「ChangeFashion」の記者として1年間でおよそ200の展示会を回り、その後「FASHIONSNAP」に入社。編集記者として、ファッション関係の展示会やイベントのレポート記事、キーパーソンへのインタビュー等を数多く手がけている。事実をベースにした批評を取り入れ、ファッション業界の動向をよりわかりやすく、おもしろく伝えるために取材を続けている。

企業の内定を蹴り、ファッション業界へ

まず、芳之内さんが記者としてどんな仕事をしているのかを教えてください。紙のファッション誌だと、編集者が「この夏はボーダーが流行る」「一週間着回しコーディネイト」などの企画を立て、ライターが記事を書く、という制作スタイルがありますが、「FASHIONSNAP」はいかがでしょう。

芳之内 「FASHIONSNAP」はファッションを中心に、カルチャーや食などの情報を発信するメディアです。僕は肩書としては「編集・記者」で、普段はファッション系の展示会やイベントに行って記事を書いたり、記者会見などに出席して、一般の新聞社に混じって取材をしたりすることもあります。編集部で企画を立てることもありますが、記者が個人で動いている部分が大きいですね。Webメディアはスピード重視なので、個々人が自分の頭で考えて判断して、記事化して掲載するという記者自身の裁量が大きいです。

サイトが生まれたきっかけは、代表の光山(玲央奈)と共同設立者の座間(康平)が、学生時代に「雑誌のストリートスナップは撮影から掲載までに数ヶ月かかるから、タイムリーにアップできるサイトがあればいいね」と話し合ったこと。今はそこから発展して、ファッションのニュースや関連する情報も扱うようになりました。今では国内最大のファッションニュースメディアとして業界内外に情報を発信しています。記事は、“事実ベースの報道”がメインとなっています。

kiji
芳之内さんが取材・執筆したインタビュー記事「デザイナー小野智海はなぜブランドに名前を付けなかったのか?
http://www.fashionsnap.com/news/2015-04-08/site-of-incidence/

ファッション業界のことをメディアを通じて伝えていく、というお仕事に興味を持ったのはなぜですか。

芳之内 立命館大学の経営学部に通っていたので専門的な勉強はしていませんでしたが、ファッションはもともと好きだったんです。当時はディオール・オムのデザイナー、エディ・スリマンの絶頂期で、僕もハマっていました。就職活動はメーカーや銀行など一般企業から内定をもらっていたのですが、やっぱりファッション関係の仕事がいいなと思い、大学卒業後、1年制の服飾系の専門学校に行って服作りを学びはじめました。僕はどんな職種を選ぶにしても“新しいことを追求したい”という意思があったのですが、学校に通いながらファッションデザインの歴史を学ぶうちに、「今から新しくデザイナーとして活動しても難しそうだな」と考えるようになったんです。つまり、もう出尽くしているな、と。

また、それと同時にファッションに対する“わからなさ”をずっと抱えていました。例えば、ハイブランドとファストファッションのどちらが良いのかと訊かれたら、大抵が「ハイブランドでしょ」と答えると思うのですが、“それはなぜなのか”を本当の意味で説明できる人は少ないのではないかなと。

“わからなさ”を解消するために

ハイブランドとファストファッションのどちらが良いのかは、基準の立て方で変わってきますよね。でも、ファッション業界ではほとんどの場合、客観的な基準を立てないし、他のジャンルと比べて“批評”も発達していない。

芳之内 そうなんです。コレクションを見ていても、「ここはエッジが効いている」「今年はこれが流行る」などの文句が踊っていますが、いったい何を基準に、なぜそう言っているのか、というのがわからない。これは受け手の理解力がどうということではなく、ファッション業界が抱えている問題だと思います。

在学中もそういった“わからなさ”について考える日々でした。学術的に研究するという道もあったと思いますし、実際に本を読んで勉強したりもしていたのですが、やはり趣味程度でそちらには徹しきれないのかな……と自覚していて。そんなとき「ChangeFashion」に掲載されていた蘆田さんとMIKIO SAKABEの坂部三樹郎さんの対談「ファッションとファッション批評」を読んだんです。

あの対談、読んでくださったんですね。

芳之内 はい。ファッションを今よりわかりやすく、そしておもしろいものにしていくために動いている人がいるんだなと感銘を受けたんです。それで「ChangeFashion」に応募し、インターンで記者をするようになりました。期間は1年ほどでしたが、展示会を200ヶ所くらいは回りましたね。

インターンを通じてどんなことを考えましたか。

芳之内 日本だけでも何百とブランドがあるなかで、どれもすごくクリエイティビティを発揮していると思うのですが、メディアやPRが追いついていない、まだ開拓されていない市場だと感じました。自分でできることを考えたときに、ファッションの事象や事実を追い、その輪郭を浮き彫りにしていけば、見えてくるものがありそうだと思ったのも、メディアの仕事を選んだ理由のひとつです。また、ファッションの分野でのジャーナリズムは、ビジネスモデルとしても成長するのではないかと感じて。雑誌だと“提案型”ですが、Webメディアだと事実や歴史を掘り下げる記事をタイムリーに出していける。これまでファッションメディアではおろそかになっていた部分なので、読者の反応も大きいです。

メディアやPRが開拓されていないという印象があったとのことですが、具体的に説明していただけますか。

芳之内 他の分野と比較するとわかりやすいのですが、例えば「ビジネス」であれば、企業に何が起こっているか、良いことも悪いことも新聞がストレートに報じるという市場が確立されています。しかしファッションは、メディア側がブランドに確認をとらずに報じると、それが客観的な事実であっても、「イメージにかかわるので記事をとりさげてください」なんてことが起こりえるんですね。要するにファッション業界では、メディアが“事実を追求するジャーナリズム機関”として認識されていない。

これはメディア側にも問題があります。雑誌しかなかったころは、各ブランドと協力して記事を出すのが当たり前だったから、メディアは広報手段のひとつとしか思われていないんだろうな、と。このあたりを変えられれば、ファッション業界はもっとおもしろくなると思っています。じっくり作りこむ企画ページなどは、これからも紙の媒体が強いと思うのですが、Webはニュースの領域で伸びていくんじゃないでしょうか。

LINEで送る

HOME