先生にインタビューで聞く人文学部の学び
市地 敬典 インタビューテーマ 自らを形作る“意味”とは 准教授/学生時代は哲学を専攻。現象学の観点から「批判」の概念の再検討に取り組んでいる。本学での担当科目は、人文学部1年生必修の「日本語リテラシー」。

先生の研究テーマは何ですか?

哲学の中の「実存」という概念、思想について研究しています。「実存」というのは、この場をどんなふうにしたいのか、自分が関係づけられている人(たち)に何を伝えたいのか、自分はどうありたいのか・・・というように「自分がいま、ここにいる意味」を考え、自分自身を作っていくことです。
20世紀の前半、この概念について深く考えた哲学者に、ハイデガーという人がいました。彼の場合は、生きることの目標や方向性がどんどん不透明になっていく時代にあって、人間が実質的でリアリティある存在感覚を獲得できるのはどのような道すじか、という問いから発して「実存」について考え始めたわけですね。
たとえば、誰かと話している時に、「その意見は違うんじゃないか?」と感じることはありませんか? そして、そのまま流しておけば良いのに、ついつい正直に「それは違うと思う」と発言してしまったりする。それは、自分にとってより良い場(世界)を作りたいという思いから生じた行動である。と同時に「こうしていきたい」という、何かを求める行動は、"意味"の次元で自分自身を形作るものでもあるんですね。そういった「自らを形作る"意味"」を深く見つめることで、自分が存在する在り方や可能性を探っていくという考えが「実存」なんです。ハイデガーは、「実存」から人間の本質を知ることをモチーフにして、より良い世界の姿を描こうとしていた。そして今、僕はその弟子の一人であるレヴィナスという哲学者の思想を見直すことに挑戦しています。

ichiji_01.jpgこの図を使いながら、哲学について教えてもらいました。

ハイデガーではなく、弟子のレヴィナスに焦点をあてられているのですね。実は、私は哲学にすごく苦手意識があるんですが、もっと知りたいのでぜひ、わかりやすく教えてください!

ハイデガーの唱える「実存」だと、人間は何らかの目的意識(や目的感覚)を持って行動しているということになります。たとえば「試験に受かるために、勉強する」などですね。だけど、例えば「眠いから寝る」などの、行動に付随する気持ちよさそのものを求める行動もありますよね。それを目的意識と言ってもよいのか?とレヴィナ

スは思ったんです。
たとえば眠ったり、食べたり。自分の知らなかったことがわかってくる、というのもそう。必ずしも特定の目的を達成するための行動ではないですよね。そういった、自分にとっての人生の糧を味わう行為をレヴィナスは「享受」と呼んだんです。僕は、この思想はとてもおもしろいと思います。
さらに、それだけでは不満だったレヴィナスは、「倫理」という思想を考えました。「人は他者からの呼びかけによって自らの行動・言動を作っていく」ことがレヴィナスの考える理想的な形。自分らしさを守ろうとして他者を排除するのは、自分自身を貧しくすると彼は考えました。これが「倫理」です。
僕はこの考え方に関心と疑問が同時にあって研究しているんですが、自分の行動の基準が"他者"ということは、誰かの言いなりになって生きるという可能性も含まれうる。そうなると逆に、自分にとって居心地の悪い状態になりませんか? だから、僕はこの思想は不完全だと思うんです。大切なのは、自分らしくあることを保ちながら他者との接点を持つ、あるいは育てる方法を探ることなのではないでしょうか。

哲学のことが少し分かってきました! 市地さんは、言葉の綴り方を学ぶ「日本語リテラシー」を担当されてますが、「言葉」というものについてどんな考えを持ってるんですか?

そうですね。自分自身に対する理解を深めたり、他者と細やかな関係を作っていくための「ツール」になるものが「言葉」だと思っています。たとえば、付き合いづらい人に出会った時に、その人を「嫌い」や「悪」という言葉で片付けてしまうと、何も関係は生まれません。だけど「理解しにくい人だけど、その部分はおもしろいところかもしれない」と考えることによって、自分にとって糧となる関係を作り出せるかもしれない。関係をどういう言葉でとらえるか? ということですね。
それに、僕らは調子のいい時は極端に自己肯定してしまうし、調子の悪い時は自己否定をしてしまう。それは貧しい経験だと思うんです。"私"というものは、自己肯定と自己否定の間にある。そんな"私"を成り立たせているものを丁寧に言葉でつかみだすことで、僕らは豊かな自分自身、「実存」を作っていけるのだと思います。

ichiji_02.jpg自転車がお好き。こちらは愛車のマスカット号です。

EDITOR

山口 康介

山口 康介KOSUKE YAMAGUCHI

人文学部 4回生

大学入学直後に「哲学って何だかカッコよさそう!よし、私の専門分野は哲学に決定!」と思って哲学の本を開いたは良いものの、5ページだけ読んで、その本を棚にしまったという苦い記憶があります。それ以来、哲学を無視し続けてきた私ですが、今回の取材でとても分かりやすく、ハイデガーなどについて話してもらえたので、苦手意識がだいぶほぐれました。良かったぁ。
市地さんの研究はレヴィナスの思想に疑問を持つことで始まったようです。最近、私は「これってどうしてこうなってるの?不満!」、「やだなぁ、これ、ひっくり返したいなぁ」ということを出発点にして始める勉強がとてもおもしろいなと感じているので、親近感を感じました。

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市地 敬典

市地 敬典

准教授
[ 実存、交流 ]

自らを形作る“意味”とは

山口 康介

人文学部 4回生