テープ起こし:須藤 由香・竹内 ひとみ・奥田慎也
編集:川畑 望美・細川 弘明
今日の本題は「合成洗剤」。もう少し正確な言い方をすると,「合成界面活性剤」の問題について話します。そのプリントは4番以降です。4番(資料4)と番号なしの裏の方(資料8)と,6番(資料6),7番(資料7),この4つが今日のテーマに関するプリントです。
それに対して,1番のプリント,いろんな記事が張り付けてありますが,1番上のものは,この前お話しした産廃税,つまり産業廃棄物に対する地方自治体の税金,課税して他の県から入ってくるのを抑える,ブレーキをかける,産廃税(産廃課税)についての解説記事が,ちょうどいいタイミングで出ましたので貼ってあります(資料1−A)。補足説明をする時間がありませんので各自読んでおいて下さい。前回の授業の補足になります。
次に,同じ1番のプリントの真ん中の記事(資料1−B)。長野県の「脱ダム宣言」をめぐって,状況がはげしく動いています。この授業でも紹介したように,田中康夫知事が「脱ダム宣言」をして,予定されていたダムの工事を実際に中止するという判断を具体的に出し始めました。それに対して県議会,長野県の県会議員さんが反発しています。田中康夫さんは,特定の政党と結びつかずに完全無党派で県政にのりこみましたので,県議会はいわばオール野党なんですね。とりわけ自民党系の非常に強い反発があって,予定通りダムを造れということで,いま対立が非常に深まっています。これはニュース等で結構大きく扱われていますので皆さん見ていると思いますが,ここの記事に載せたのは,具体的に下諏訪ダムと浅川ダムの2つのダムが中止する方向に,知事側といいますか,県側の方針が固まった。それに対して県議会がそれはけしからんということで,田中知事に対して不信任案を出そうとしています。まだ出ていないですけれど。これはようするに県議会が知事に対して「もう信用できないから,あんた辞めなさい」という決議をする,ということです。
もし不信任案が可決された場合,知事側は「何を言うか,おまえ達の方が間違っている」と言って,県議会を解散することもできます。しかし,解散されて選挙した後の新しい県議会でもう1回不信任案が可決されると,知事は辞めないといけません。法律上そういう仕組みになっています。不信任案というのは,大きなことですから,1回目は現在の県議会でやる場合は,4分の3以上の議員が賛成しないと通りません。しかし,もし選挙をし直して新しい議会になってからやると,2回目の場合は,単純過半数(2分の1の賛成)で不信任案を可決できます。そういう決まりになっているんですね。そうなると,自民党系議員だけで半分以上いますので,あえて選挙に持ち込んで知事が,返す刀で議会をバッサリと解散して選挙をし直しても,もういっぺん不信任案を出し直せば,田中知事を辞めさせることができる。したがって,「脱ダム宣言」というのも,もういっぺん無しにすることができる,という読みが一方であります。
それに対してもう一方は,選挙をやったらば,はたして自民党の議員達はもういっぺん議員になれるだろうか? つまり「脱ダム宣言」をめぐっては全国から注目されているけれども,長野県の中でももちろん議論が高まっています。したがって有権者が議員を選ぶときに,全く同じ議員をそのまま選ぶかどうかは分かりません。当然「脱ダム宣言」がどうなるかということを判断材料にして投票しますから,今ダムを造れ造れと言っている議員達は落選する危険を犯して,解散に持ち込むという形になります。したがって,これはどちらも──知事側も,自民党議員側も──先が読めないという状況で膠着状態です。
まあどうなるかわかりませんけれども,この授業でもずっと取りあげてきたダムの問題,公共事業の問題,非常に動いているということですね。これは,長野県のことだけには留まらない。日本における公共事業のあり方,もちろん環境との関係でもあるし,意志決定,つまり誰のために何をどうやって決めていくのかという意志決定に関わる事柄でもあるので,非常に注目されています。
※結局,不信任案は可決され,田中知事は議会を解散せずに,あえて「失職」して,あらためて知事選挙にもちこむ,という選択をした。投票は9月初旬の見込み。
その記事の左下側に,鳥取県の「口利き文書化」の記事(資料1−C)がつけてあります。これは前の授業(5月29日の授業公開を参照)で取りあげた話の続きです。結局8月から実施されることになったという続報ですね。これは読んでいただければわかります。
このあいだ(6月19日の授業で)イギリスの二酸化炭素排出権取引についての大きなプリントを配りましたが,ほぼ同じ仕組みを日本でもやっていこうということで,環境省が音頭をとって,試しに始めましょうという方針をたてて,それが記事になっています。プリント1番の右下の記事です(資料1−D)。つい先週の記事です。
以上,1面に挙げたのは,どれもこれまでの授業で取りあげたことの続報ですので,説明はここまでにします。各自読んでいただければ詳しくわかると思います。また,読んだ上で,質問や意見があればどうぞ出して下さい。
最近,だんだんメールで質問や意見が届くようになって,結構なんですが,この人数が(教室にいる学生全体をさす)全員メールを送ってきたら,当然,私の方がパンクしてしまいます。今のところ5,6人ずつですのでなんとかやっていますが,今日紙に書くことができなければ,あとでメールで下さっても結構です。メールアドレスは,magpie@kyoto-seika.ac.jpです。自前のメールソフトなどを持ってない場合は,メールフォームをつかってください。
次,裏返して下さい。2番のプリントです。期待の高まる燃料電池です。燃料電池について,詳しく何回か,2回ほどでしたか,授業で取りあげましたので(5月15日の授業公開とそれ以降の授業コメント数回を参照),もう繰り返しませんけれけども,その時,来年か再来年ぐらいから実用化が始まるんじゃないかという予測を述べておりましたところ,更に早まって今年から出るということで,これは昨日から今日にかけての多くの新聞でかなり大きく扱われています。ここに載せているのは,朝日新聞と,読売新聞の記事です。写真がついているのは朝日新聞(資料2−A),解説記事のようなのものは読売新聞(資料2−B)です。
この記事を読んでもらうとわかるのは,値段が書いていない。一台いくらなのか書いていない。ということは,どういうことですか? どういうことでしょう,値段が書いていないということは?(前列の学生に聞く。学生は答えに困って「・・・」)
これはもう実験じゃなくて実際に出ると決めちゃったことなんだけども,しかし値段が書いていない。どういうことでしょう? (別の学生が「値段が高い」と答える。)
はい。値段が高い。書けないくらい高い,ということですね。書いたら世の中にショックを与えるほど高いということでしょう。わかりませんけれども,1千万どころじゃないと思います。数千万はすると思います(※資料2-Aには「車両価格が1〜2億」との見込みが書かれていますが,それより少しは安くなるでしょうけれど)。そんなもの誰が買うかというと,誰も買いません。それではトヨタはどうするかというと,リース方式で始めるということです。よく考えましたね,トヨタも。トヨタが新車を出すんですけれども,持ち主はトヨタのままで貸します。いわゆるリースですね。1ヶ月いくらで貸します,あるいはもう少し長い契約であれば割安で貸しますということで,リースの値段も書いてありませんが,それはこれから交渉しようということなんでしょうね。20台位を当面,政府や自治体など,役所むけに──ということは我々の税金でリース代を払う,ということですけれけども──にリースをする方式で始める。ともかく動かし始めると。ちょっとあせってる感じがします。急(せ)いている感じがします。
急ぐ理由は2つあると思います。ひとつは,うかうかしていると他の会社が──ベンツとか日産とかが──先んじてしまう。世界最初の実用車です。試験段階のテスト車は,能力は実用車とほぼ一緒になっていて,乗用車タイプのテスト車がすでにマツダのものとか,ダイムラー・クライスラー車のものが公道を走っています。また,大型のバスや中型のバンはすでにヨーロッパなどで実用化されています。けれども,こういう乗用車タイプ,セダン,ワゴンのもので実用車が販売されるのは世界で初めてです。宣伝効果も狙って1番をとった,というのが理由の一つでしょう。
私はトヨタが1番になるとは予測していませんでした。もともと僕は予測が上手な方ではないんですけれども。ホンダとかフォードあたりかなと思っていたんですが・・・。
※現に,このあとホンダも年内に販売に踏み切ることを発表した。
もう一つの理由は,やはり実際にお客さんに使ってもらうことによって,テスト車ではわからない様々なデータが集まるということ。どの会社もテスト車を一般道路を走らせてます。いろんなデータをとっています。どんなトラブルが起きるかというのをチェックするために走らせていますけど,やはりそれはメーカーの立てたテスト計画で走りますから,一般の使用者がメーカーの想定しない使い方をするということは,テストのなかでは分からないんですね。実際にお役所に使ってもらう,自治体で活用してもらって,そのなかでどういうトラブルが起きるか,あるいは燃費はどうなるか,その他の部品の耐久性,信頼性はどうか,といった現実のデータが集まる。そういうユーザーの声を早くとった方が,より完成度の高いモデルにつなげていけますから,トヨタとしては現時点での完成度よりもそれをとった。ある程度,値段は度外視して,その難点をクリアするために,リース方式としてやっていく。
なかなか企業というのは賢いといいますか,ずるいといいますか,リース方式というのはよく考えたなあと思います。だって,役所がリースしたら,税金で開発を支援するのと同じことなんですよね,結局,お金の回り方としては。しかしそれを,「税金を出して下さい」と申請するのではなくて,あくまで契約としてリース料を税金から取ってしまうという。その辺は,なかなか企業もしたたかだなぁという気がします。いずれにしても,燃料電池の自動車がもう実用までの秒読み段階に入った,ということが一層明確になってきました。
同じ面におまけで,ちょうど今朝,日経新聞に出た記事がありましたのでつけておきました(資料2−C)。北海道をモデル地区にして燃料電池の本格的な実証試験を始めてみようという話です。これは政府──国土交通省,経済産業省,環境省,つまり「地球温暖化防止対策」に非常に密接に関わる三つの省──が旗を振って,モデル事業を始めるということです。自動車も入っていますけれども,それ以外の冷暖房など要素もふくめて,総合的に燃料電池を活用するモデル事業をたくさんやっていこうと。
これは,トヨタの話とは全く別の記事として報じられていますけれども裏ではつながっていると思いますよ。こういったお膳立てというか,根回しがそろってから,(政府とトヨタが)ほぼ同時にそれぞれの計画を発表した,ということだろうと思います。原発と同じように燃料電池は日本が国策,国を賭けて開発していこうというものの一つですので,こういった形になるんだろうと思います。
次に3番のプリントを見て下さい(資料3−A,3−B)。これも前に話したことの続報ですので,あまり時間はとりませんが,ウラン残土ですね。先週お話しした鳥取県人形峠のウラン残土の問題で,判決を受けて,地元の自治体(東郷町)が仮執行をしますよということで,裁判所の許可を受けるため動き始めました。「仮執行」というのは,自分たちが裁判所の代わりに,その残土をどける作業を(裁判所の許可を得て)やってしまいますよ,ということです。残土の持ちこみ先としては,今のところ人形峠の核燃事業所,つまり県境をまたいで岡山県側に持っていく以外に考えられませんけど,それに対して岡山県知事は,ダメー!と言っています。しばらく膠着状態できそうですけれども,住民側は岡山県知事がなんと言おうと持ち込むぞと,実力行使に訴える可能性が高いですね。
※その後,一審で敗訴した核燃サイクル機構が控訴すると同時に,「仮執行」の停止を申し立て,裁判所がこれを認めたため,残土の移動は当面できなくなった。
ついでにその下に,毎日新聞のインターネット版のサイトに載ったちょっと気になる記事をつけておきました(資料3−C)。先週お話ししたように人形峠というのは国内ですね。そこでウランを掘って,どんどん採れれば,国産ウランが手にはいるわけですから,それを使って原子力発電をすれば,日本のエネルギーは自給できると。そういう期待のもとに始まった。残念ながら掘ってみたら上手く行かなかった。そういうことでとりあえず,掘りカスである残土が,今でも,40年以上経っても問題になっているわけです。その後,ウラン自体は100%海外から輸入しています。輸入ウランに頼ってともかく原発を進めてきた。
しかし更に原発を増やそう,あるいは増やさなくても現状維持で続けようとすれば,ウランを更に掘り続けないといけないですから,海外でも新しいウラン鉱脈を探しておかないといけない。というのは,100%輸入に頼っていますと,もうウランを売ってあげませんよと言われたら,例えば戦争ではなくても経済的なトラブルとか国際関係のトラブルなどが起こって,ウランの輸入が止まれば原発ができなくなる。そこで,日本はなんとか世界各地でウラン探しをして「日本の見つけたウラン鉱山」というのを確保したかったんですね。
それで核燃料サイクル開発機構(核燃),先週言った古い名前でいうと「動燃」,人形峠をやっていた国の役所ですけれども,ここが実はここ30年ぐらい世界各地でウランを探す仕事をしてきました。いい鉱脈はないかということで試し堀りなどをしてきました。国でいうと,カナダ,オーストラリア,アフリカのニジェール,中国でも少しやっているのかな? ...といふうに,海外でなんとか「日本が見つけたウラン鉱山」を確保したかったんですが,当然,鉱物探査はお金がかかります。749億円かかったと書いてあります。実際はもっとかかったんじゃないかと思いますが,結局,まともな鉱脈は見つからなかったんですね。ということで,今回,もうこれを断念すると。とりあえず手をつけた土地の権利やなんかを全部売り払って,それでも30億円位しか回収できないので,700億円以上の税金を投入して,結局,成果がなくて終わる。これでしょうがないから原発は止めるというなら素直な話ですけれど,それでも原発を続けるとなれば,他の国,他の会社が権益を持っている鉱山からウランを買い続けなければいけない。そういう状況が続いています。
お金の話だけではないですよ。探して結局だめだったというのは,ただうろうろ歩き回って見つからなかったという話じゃないんです。実際に掘ってみて,鉱物の性質,品位といいますけれど,何パーセントの含有率があるかとか,掘っても経済的に採算が取れるか,そういうことも検討したうえで,結局,採算が合うところが見つからなかった。ということで断念するんですが,掘ってはいるんですよ,サンプルを何十トンも採取するために。人形峠と同じように。ですから,日本が鉱物探査をした場所で,全て残土があります。カナダもオーストラリアもニジェールも中国も(中国の場合,場所ははっきりしないですけれども),世界各地に日本政府による探査事業のためにウラン残土が放置されているところが沢山あります。ちゃんと始末してあるところは一つもないと思います。自分の国のほんのわずかな残土(人形峠)ですら40年経っても始末できないのに,海外にもっと大量の,しかも放射能レベルももっと高い残土を,どうするんでしょうね。結局,その残土も含めて他の会社に売り払ってしまうということで,「あとは知りませんよ」ということだと思いますけれども。そんなことで通るんだろうかという気がします。
以上までが先週の記事の続報です。
さて,本題の「合成洗剤」の話に入る前に ... 石山さん来てますかね? 石山さん来てない? (受講生の石山一光さんを見つけて)どうしようか? ちょっと5分かそこらお願いしてもいい? いいですか?
はい,産廃の話です。先週「産廃税」の話,それから「産廃の不法投棄」の話をしたところ,なんと昔アルバイトで,アルバイトっていうか仕事で産廃の不法投棄の仕事をしていたということで捕まったことがあるという人物がいるということが,書いていただいた質問カードで判明しましたので,お招きします。(会場:笑・笑・笑,そして拍手)
石山さん:えー,こんちわっ。最初に言っておきますけれども,別に前科者じゃないんで。アルバイトしていた先が捕まったということなんですけれども。
僕,ここに来る(=精華大に入学する)前まで建築業で仕事をしていました。その中でその不法投棄とか産業廃棄物とか,そういうものに携わる機会が多くて,実際ゴミを山の中に不法投棄するというのをちょっとアルバイトにしていたこともあったんですけれども。実際そういう不法投棄とか産廃の処理っていうのはスゴイお金が動くというか,先週の授業で先生がおっしゃっていましたけれども,暴力団とかそういうものの絡みがスゴイ強くて,正規に処理されているというものは,僕の知る限りでは,だいたい全体の2割〜3割ぐらいだと思っています。
その中で不法投棄っていうものが行われているんですけれども。なぜ行われるのかっていうのは,先週の授業でもあったと思いますが,すごいコストがかかるとか,面倒くさいとか,手間がかかるとか,そういう色々な事情があるんですけれども。その中で安易に処理を済ませようとか,スムーズな仕事をやろうとかという考えが,僕のようなアルバイトとか,アルバイトでそういう不法投棄をしようとかいう動きが,実は結構行われています。
不法投棄って言っても実際どういうものかっていうと,色々な方法があります。土砂であるとか,人形峠のウランの残土の話がありましたが,そういう土とか岩とか,そういうものの処分というのは,大概,川とか谷に捨てるという方法です。建築資材であるとか,大きな産業廃棄物というものは山の中に,山を切り開いて穴を掘って──ものすごい大きな穴ですけれども──その中にゴミをドンドン入れていくと。で,その上で2m〜3mの覆土(ふくど)をして,その後に植林をするという方法が実際とられています。実際は「不法投棄」というかたちではなく,「植林事業」ということで,こういう問題は済まされているので,表面化されることは非常に少ないんです。
けれども,今回,僕が携わったものは,その覆土(ふくど)したのがばれて捕まった訳です。こういうのも実際,暴力団とか,あと行政の人達も実は目をつぶっているというか,必要悪であるというか,そういうような認識でこういう行動・行為がなされています。その中から内部密告というか,良心のある人間がそういう密告をして警察沙汰になったということだったんです。実際,皆さんも新聞記事だとかニュースだとかでこういう不法投棄というのは,結構目にしたり,耳に聞いたりしたことがあると思うんですけれども。実際現場に立って,ゴミが舞い上がる様であるとか,悪臭であるとか,そういうものを感じた場合に,理屈じゃなくて,心にこう,気持ちにこう訴えかけてくるものが,僕は凄くありました。そのことから僕は環境問題というものを勉強しようと思ったんです。
できればっていうか,そんな体験できるもんじゃないですけれども,皆さんもなんらかの形で,環境問題っていうのを,こう机の上だけで勉強するもんじゃなくて,実際なにかの形で体験されれば,より身近なものとして勉強しようかなというふうになるんじゃないかなと思います。以上です。(拍手)
細川弘明:僕が説明するよりもはるかに分かりやすく説明してくれました。この大学おもしろいね。(笑)
いま言っていたように「植林事業」という看板で,実は不法投棄の後始末がされていたりするということもあります。それからあの,いま石山さん言わなかったけれども,マニフェスト伝票の売り買いとか,色々やはり裏の世界の,裏の世界なりのシステムというものが出来上がってしまっているというわけです。全部そういったものを表に出すとですね,正規のルートでは掃除しきれないぐらいのゴミを排出する社会になってしまう。というところから我々はスタートするしかない。
なんかまた,こういう話がHPに載ってくると,思わぬ反響があるかもしれませんけれども。まぁ,責任は中尾ハジメ(学長)が負うということで。(笑)
では今日の本題です。あっ,ごめんなさい。もう一つ,本題の前に。あの,大勢の人からHPを見るのが大変だという不平と言いますか,不満と言うか,悲鳴があがっています。時間がかかる,それから字が多くてかなわんという声が出てます。まあ一方であの,おもしろいとか,復習になったとか,プラスの評価も沢山貰っていますけれども。とにかく長い! 辛い! 且つ更新が遅い! という,この3つが一番皆さんから多いクレームですね。
おっしゃる通りだと思います。遅いということに関してはこちらに責任があって,頑張りますので。今日の時点で7回目の授業までがアップできています。で,まだ見ていない人は是非見ておいて下さいね。質問・コメントの部分がまだ編集中ですけれども。随時あげていきます。
しかし「長い!」ということに対しては,こちらの言い分があります。それはこの授業だけじゃないんですけれども,大学の授業の仕組みといいますか,仕組みというか建前みたいなもんなんだけれども,大学が1単位出すということはどういうことか?
皆さん,例えばこの授業をとって,レポートを出したり試験を受けたりすれば単位がとれます。この授業の場合は2単位ですね。これは他の授業でも同じです。他の大学でも基本的には同じですが,1単位とるのに「何時間勉強したら1単位になるか」という目安があるんです。これは精華大学が決めたわけじゃなくて,文部科学省が決めてるんですけれども,「45時間勉強して1単位」というのが目安なんです。ということはこの授業は2単位の授業ですので,90時間勉強して2単位なんです。授業に全部出たとして何時間ですか。20時間にもならないですよね。大学の場合は90分の授業なんだけれども,90分の授業を2時間というふうに便宜上,計算する慣例がありますので,2時間と計算しても,30時間あるかないか。テストの時間も含めて30時間位ですよね。そしたら90時間のうち,あと60時間は何をするんですか?
HPを読んで下さい。キーワード集を読んで下さい。レポートの準備をしてください。そういったものを全部ひっくるめて90時間の勉強で2単位。ピッタリ90時間という杓子定規なことではありませんけれども。簡単に言えば,「授業を含めて3倍の時間の勉強時間数,エネルギーを投入して初めて単位を出しますよ」ということですので,あれぐらいのHPの量を読むっていうのは当たり前と思ってください。
では本題に入っていきます。プリントの3番の裏が5番になっていて,どちらも合成洗剤,界面活性剤の話になります。今日の本題です。
「合成洗剤」っていう言葉と「合成界面活性剤」という言葉。どちらもよく聞く言葉だと思います。でも合成洗剤っていう方がよく聞くと思うんですね。「洗剤」という言葉に,例えば「合成」というのが付いたり,「天然」というのが付いたり,あるいは「自然」というのが付いたりですね。「界面活性剤」にも合成界面活性剤とか,天然の界面活性剤とか,自然の界面活性剤とか。そういうふうにつきます。よく言われるのが合成洗剤問題とか,あるいは合成洗剤をやめましょうとか,石けんを使いましょうとか。そういうかたちで言われることが多いですね。
もちろんこの問題が認識されるようになったきっかけは合成洗剤から始まったんですけれども,実は「洗剤」というふうに限定して考えてしまうと,事態の全貌がつかめない。それだったら洗濯機で石けんを使えばいいじゃないかという話で終わってしまう。現実には,それすらも実現できてない場合が多いんですけれども。
そこで,界面活性剤,特に「合成界面活性剤」の問題というふうに位置づけをしなおして下さい。『環境社会学科キーワード集』でこれらの言葉についての説明が載っていますけれども,それはもちろん後で見ておいてほしいと思いますが,界面活性剤の「界面」ってなんですか? 「界面」。読んで字のごとく「さかいめの面」です。
例えば,ドレシッングですね。自分で作ってもいいし,スーパーで買ってきてもいいですけれども。サラダにかけるドレッシングをビンに入れて冷蔵庫に置いておく。ドレッシングがビンにこれだけ(黒板に図を描く)入ってとすると,シェイクすれば混ざりますけれども,また静かに置いておくとどうなりますか? 上の方に軽い油が浮かんで,下の方に油よりも重い水とかお酢とかが溜まって,さかいめの線ができますね。これが界面です。普通,自然界では,水と油というのはこういうふうにきれいに分かれます。どの程度までを「きれいに」と言うかはともかくとして,ハッキリ分かれます。これは自然の性質としてですね。こういう状態を界面がハッキリあって分かれている状態。
それに対してこれを「活性化する」ということはどういうことかというと,混ぜちゃうということ。界面が活性化されてというのは水と油が混ざってしまうということです。ということは,界面活性剤の「剤」というのは「薬剤」。界面活性剤というのは,化学物質の薬剤ということですから。いま非常に単純化して乱暴な説明をしているんですけれども,エッセンスというか,本質はこういうところにあります。水と油を混ぜる薬です。自然界では誰も何もしなかったら水と油というのは混ざらないで分かれてしまう。水と油を混ぜる薬。それが界面活性剤です。
なんで,水と油を混ぜないといけないんですか? 例えばお洗濯の場合。服の汚れとか,その他のいろいろな汚れはだいたい油汚れですね。もちろん土とか水で流れるものもありますけれども,油なんかがつくと水で洗っても流れない。ただの土ぼこりなんかでしたら水で流せば落ちていきますけれども。油汚れ,人間の皮膚から出る脂とか油分を含んだものは,水でザーザーやっても,思いっきりゴシゴシ擦れば流れるかもしれないけれども,なかなか流れない。これ,なぜかというと水と油は仲が悪いからですね。それでこういう薬を使ってやって水と油を仲良くしてやると言いますか,混ぜてやれば,流した水と一緒に汚れた油が流れていくということです。したがって,洗うという作業の場合には,水と油を混ぜるという作用が役に立つ。したがって界面活性剤の一つの使い方みちは「洗剤になる」ということですね。
ですけれども,そこのプリントにあるように5番のレジュメ(資料5レジュメを読む)の右側にあるように,界面活性剤というのは他の所にもふんだんに使われています。シャンプー・リンスなんていうのは言わば洗濯の応用問題みたいなもんですが,食品の例もたくさん挙げてあるでしょう。
例えばマヨネーズを作る。お料理がちゃんとできる人,あるいは料理の本来のあり方にこだわっている人は,マヨネーズはその都度作って,卵と油とその他の調味料とかを混ぜて,食べる分を作ってサラダにかけたり,目的通り使って,それで終わるからそれでいいんです。でも面倒臭いからといって,スーパーに行って,売っているマヨネーズを買ってくる場合は,ビンとかチューブのものを買ってきますから一回では使いきれない。しかし,とっておくとさっきのサラダオイルと同じように水と油が分かれてしまう。ドレッシングの場合は液体ですのでもういっぺん振ってやればうまく混ざるけれども,マヨネーズのようなねっとりしたものは水と油がそのつど分離していたら使いにくくてしょうがない。あるいはそれが原因で傷みも早くなる。ということで,マヨネーズの中に水と油が混ざった状態でいるように,本来の自然の摂理に従って分かれてしまわないように界面活性剤を入れておくわけです。いま5番のプリントの右側を見ていますが,そこにのっているマーガリンなんかも同じです。
またチョコレートこれも油分(油脂)が非常に強いものですね。でもそこに,たとえば色をつける,あるいは味をつける。たとえば砂糖は水ベースのものですから,水分で広がっていく。油ではうまく広がらない。そういう時に界面活性剤が入っていれば,うまく混ざってチョコレート全体に均等に味がいくわけですね。あるいは色をつけるというときも,着色料が均等にひろがって,うまく色がつく。アイスクリーム,その他コンビーフなどいろいろ(5番のプリントに)挙げてあります。要するに,添加物が多い食品はその添加物が均等に混じるように,あるいはいったん混じった状態がながく続くように,界面活性剤を入れる必要があるんですね。この場合の界面活性剤というのは,お洗濯に使うものと基本的には同じもの。ただし界面活性剤といっても,薬剤としては千以上種類がありますから,どの商品にどれを使っているかは企業秘密でなかなか公開されないことがあって分かりませんけれども,別にお洗濯用の活性剤とチョコレート用の活性剤が区別されているわけではありません。同じ薬品が使われたりということもあります。
※食品に添加される界面活性剤は「乳化剤」と表示されるのが普通で,それが合成洗剤と同じ薬剤であると気がつきにくいようになっている。「乳化」とは,水溶性のものと油脂が混ざりあうことで,要するに界面が活性化した結果をあらわす。
外食産業でアルバイトをしたことがある人は知っているかも知れませんが,ファミリーレストランなどで,野菜を出す直前に合成洗剤をさっとつけてから出す。そうするとレタスなんかは色がきれいになってシャキっとするんですね。古くてしなびたものでも,よく事情を知らない人が見ると美味しそうに見える。それをお皿に乗せて出す。これは昔はよくやっているところが多くて問題になったので,最近はさすがにやってないかなと思っていたら,去年の授業で,「いや私のアルバイト先では今でもやっています」と教えてくれた学生さんがいて,僕はちょっとびっくりしたことがあります。
それから卵を真っ白に洗うために洗剤として使ったり,いろんな用途があります。歯磨きの場合も発泡剤や香料やさまざまな成分を混ぜるために界面活性剤が使われます。液体の口をクチュチュとすすぐものなんかにも界面活性剤が入いっている場合が多いです(リンク参照:http://www.jca.apc.org/kinyobi/syokai/senzai.html)。口紅を使う人ですと,口紅にもまず間違いなくはいっています。ヘアカラーも界面活性剤と無縁ではありえない。
『環境社会学科キーワード集』101ページの「ヘアカラーの有害性」の項を参照。また,日本子孫基金の月刊誌『食品と暮らしの安全』158号(2002年6月号)では,ヘアカラー・環境ホルモン検査の報告が掲載されている。他にもhttp://www.asyura.com/2002/health1/msg/327.htmlなど参照されたい)。
レジュメに書いてあるものを一つ一つ説明していくととても時間が足りませんが,一番下の油処理剤。たとえばタンカーに穴があいて原油が海に流れ出したという場合。よくニュースなんかで「中和剤を撒いてます」という話をしていますが,あの「中和剤」というのは界面活性剤なんですね。海の水とうまく混ぜて溶かしてしまう。
紙のリサイクルをするために再生紙工場に持って行ったら,再生紙工場は何をするかといったら界面活性剤を使って古紙を溶かしています。こういった風に界面活性剤というのは我々の日常生活といいますか,工業化された社会生活の中で,非常な多様な使い方をされていますし,多くは私たちの体に直接入ってくるような使い方をされています。洗剤の場合でも皮膚や粘膜を通じて体内に吸収されますけれども,食品とか口紅とかの場合はもろに体内にはいってきます。
では,なんで界面活性剤はいけないのか。実は「石鹸」(せっけん)というのも自然の界面活性剤なんです。では,石鹸はよくて,合成の界面活性剤の方はなぜいけないのか。その理由は,合成洗剤をめぐる問題をいろいろ研究・分析するなかで明らかにされてきたんです。
そこで,いったん洗剤の話にもどりますが,レジュメ(プリント5番)の左側をみてください。界面活性剤,特に合成界面活性剤,典型的なものとしては合成洗剤ですが,これがどうして問題になるかということが,そこにひと通りまとめてあります。いま時間がありませんので重要なポイントだけおさえます。ひとつは毒性があるということです。この毒性というのは「発ガン性」であったり,新生児に奇形をもたらす「催奇形性」であったり,それからその他さまざまな健康障害を起こすという意味での人間にとっての「人体毒性」。
それから最近分かってきたことは,環境ホルモンとしての作用もある。発ガンとかいった毒性とは別のレベルで,環境ホルモン(内分泌作用阻害物質)としての役割も果たします。それは直接体内に入っても,環境経由で入っても,長期的には非常に深刻な結果をもたらす恐れがあるとして,いま環境ホルモンの問題は非常に注目を集めていますね。合成の界面活性剤というのも,全ての種類でではないんですが,環境ホルモン作用があるということが明かになりつつあります。
ただ,合成界面活性剤は化学物質としての種類が非常に多いので,ひとつひとつの作用については,まだはっきり分かっていないことも多いんですね。発ガン性がはっきり指摘されている物質もたくさんありますが,まだ発ガン性がどのくらいあるかどうか分からないという物質もあります。極端に毒性が高いものは禁止されたりするわけですね。でも,たとえば洗剤では禁止されていても,相変わらず再生紙の工場では使われているかもしれない。あるいは口紅とかマヨネーズなど体に触れるものについては禁止されていても,スプレーの中に入っている界面活性剤としては許可されているかもしれない。そういう意味で禁止とはいっても,全面禁止されるってことはほとんどないんですね。特定の用途について禁止されているという限定的な規制しかありませんので,うかうかしていると環境中にたくさん放出されている,あるいは人体にいつのまにか取り込まれているということになる恐れもあります。こういった人体毒性の問題がひとつであります。
2番の問題としては,私は実はこちらのほうが大きな問題だと思うんですが,「環境毒性」です。言いかえると生態系を破壊してしまう。合成洗剤と天然の石鹸とでは,生態系に対する影響の度合いがさまざまに異なるんです。
合成洗剤と石鹸との違いとして,これはよく言われることですが,たとえば石鹸というのは分解するときに大量の酸素を必要とするから,水の中の酸素を消費してしまって水質を悪化させると。ですから石鹸というのはあまり良くないといわれる場合があります。これは合成洗剤のメーカーが言うことなんですけれどもね。じゃあ,例えば金魚鉢に石鹸水を入れて金魚が死ぬかというと死なないですよ。これはかなりの濃度の石鹸水を入れても死なない。それどころかしばらく経つと,金魚が食べられるエサになっていく。すぐその場ではだめですが,時間が経って日光が当たって分解していくと金魚が食べられる物質(金属塩)に変わっていく。それに対して,合成洗剤(合成界面活性剤)ははるかに薄い濃度でちょっと金魚鉢に入れても,金魚は死んでしまう。ということで,毒性の高さは石鹸の比ではないんです。
諫早の干拓の話で,どうして干潟が大事なのかという話をしたときに(4月24日の授業公開を参照),微生物の働きがあるんだと言いましたね。それが生態系の土台になっているんだという話をしましたし,プリントも配ったので,みんな理解してくれていると思います。合成洗剤を環境中に放出するということの最大の問題は,微生物を殺してしまうということです。つまり生態系がもともと持っている浄化作用をダウンさせるということ。ということは,生態系を潰してしまうということとほぼ同じことです。そういう壊滅的な効果を持っている。実際問題,日本のわれわれの生活は合成洗剤を環境に放出し続けてきていますので,自然生態系──具体的には,川や海や沿岸──の浄化力というのはかなり落ちているということが推測されるんですね。
ただこういうことに関して,きちんとした評価,きちんとした研究というのはなかなか出ていません。なにしろスケールの大きい話ですので。部分的に調査をしたり,実験室レベルでの研究結果はたくさんあります。それはすべて合成洗剤がきわめて微量であっても,環境に非常に悪い,大きな影響を与えているということが確認されているんですが,実際の日本全体の生態系にどれほどの影響をもたらしているかということに関してまるごとおさえた調査結果というのは,残念ながら今はまだ無いですね。
しかし,「結果」はすでに色々なかたちで私たちに見えていると思います。例えば,川のミジンコが非常に減っている。ということはそれを食べている他の大きなプランクトンも魚も減るということですし,その魚を食べている鳥やカエルであるとかも減っているということです。そういった生態系の食物連鎖の下の方から崩れていってしまう。日本を象徴する鳥であるトキが絶滅するというので騒ぎますけれども,なぜトキが絶滅したかということをちゃんと考えて議論する人というのはそんなに多くないんです。やっぱりトキが絶滅していった大きな原因のひとつは,合成洗剤の放出だと思います。このほかにまた農薬という問題もありますけれども。そういった環境毒性が非常に高い物質を放置してきた結果なのではないか。
で,さっき言った油と水を混ぜるという役割を考えてみると,人間の体の中あるいは人間の体の外でも油というのは非常に重要な役割を果たしているんです。たくさんの役割がありますが,いまここで問題になるのは,油には「毒を包み込んで隔離してくれる」という役割があります。われわれの体の中に──これは人間でも他の動物でも同じですけれども──毒性物質が入ってきたら,われわれの身体はどうしますか? 放置しておいたら血管やリンパ管の中に入って体中にまわってしまう(体液循環)。それはヤバイとなったら体はどうするか。体液循環しないように毒性物質を捕まえて隔離しておく。一番有効な隔離の方法は,血液やリンパ液という体液は水ベースですから,油ベースのものに隔離してしまう。例えば,肝臓の中に毒物を貯めておく。油でくるんでしまえば,水に簡単には溶け出していかないので,血液中にそういった毒性物質がまわっていくことがない。ですからダイオキシンにしても,PCBにしても,われわれの肝臓であるとか筋肉,体の油の部分といったところに蓄積していくわけですが,それは隔離されているということでもあるんですね。体液の循環から隔離するということです。これもわれわれの生物としての体が本能的にとっている防御のしくみなんです。そうやって,せっかく水と油の仲の悪さを利用して分けているところに,界面活性剤を投入していったら,せっかく隔離しておいたものがもういっぺん溶け出してしまう。
これは人体の中あるいは動物の体のなかでも起こりますが環境中でもそうです。例えば,水俣病のように有機水銀が環境中にでてしまった,あるいは環境中で有機化してしまう。何もしなかったら,海の中や川の中で生物──魚とか貝とかに蓄積されて,それをわれわれが食べてしまう,ということで人間に返ってくるんですけれども,よくしたもので,そういった物質は海の底,川の底,あるいは湖の底のヘドロの中に溜まっているんですね。このヘドロには油分があって,そういった毒物を包み込んで水中にそう簡単には出ていかないように膜をはってくれているんです。いわば毒と通常の生態系の水を基礎とした循環の間に界面をつくってくれている。
ところが,そこにお洗濯であれ,お料理であれ,われわれが合成界面活性剤をジャカスカ使ってどんどんどんどん流していったらどうなるか。せっかく隔離してあった毒物との界面が壊れてしまうんですね。それでもう一度循環の中に毒物が出てきてしまって,生物濃縮を通じてわれわれにも入ってくるし,もちろん他の動植物にも影響を与えることになります。
資料5番の(3),(4)については時間の都合で省略します。次に資料4番を見てください。いま話しているような問題というのは実は20年以上前に分かっていたことなんですよ。にもかかわらず,なかなか合成洗剤,あるいは洗剤以外の場面での合成界面活性剤の使用が減らないのはなぜか。その理由がいくつかこのプリント(資料4)に書いてあります。
ひとつは宣伝といいますか,広告といいますか,日本のコマーシャルの1割以上は洗剤のコマーシャルなんです。これは外国から来て日本のテレビを見た人はみんな驚くんです。なぜ日本はこんなに台所用洗剤とかシャンプーとか洗剤のコマーシャルが多いのかと,びっくりする人が非常に多いです。確かに数字でみると異常に多いんですね。4番のプリントには,いくつか具体的な例と問題が書いてあります。いわば一般消費者は,完全にではないでしょうが,ある程度洗脳されている。メディア・ウォッシュと言いますか,洗脳(ブレイン・ウォッシュ)されているということがあります。さすがは「洗剤」です。
それからもうひとつ,誤解を招くような宣伝。例えば「薬用」であるとか,「天然成分」,「指定成分」というような誤解を招きかねない言葉の使い方が放置されている。本来はこういった言葉の使い方は法律的にもっと厳しく規制するべきだと,私は思いますけれども,実際にはあまり規制がきっちりしていなくて,メーカーの側(=商品を売る側)が売る材料にうまく使えるように,誤解を招くような使い方をしてしまっている。
それからさっき言ったことですが,同じ資料4の左下に「『一長一短』説のまやかし」というふうに書いてあります。例えば,石鹸というのはBODが高いとよく言われます(※「BOD」については『環境社会学科キーワード集』を見てください。詳しくはそちらに説明が載っています)。要するに,汚れたもの(有機物)が水の中に入っていったとき,汚れが分解する(無機物にもどる)ために酸素が必要です。ということは,あまり汚れを水の中に流し込むと水中の酸素が不足してしまう。せっせ,せっせと分解するためにですね。不足してしまって,そうするとその酸素を必要としていた他の微生物や植物,あるいは魚が死んでしまって,環境に害になる,あるいは浄化力が落ちるということです。BOD──「生物化学的酸素要求量」と言います──が高いというのは,このような面から見ると良くない。しかし,この資料4に書いてあるように「BODの数値が高い」というのは,ある意味ではいいことなんです。というのは,それは「酸素さえあれば自然界で分解できる」ということなんですね。
天然の界面活性剤である「純石鹸」──本当の意味での石鹸──は分解が非常に早く始まるんです。使って水で流すと,その流した時点から分解が始まっています。一日くらい経つとほぼ完全に無機物に戻ってしまう。分解のスピードが非常に早いという特徴があります。ということはどういうことかと言いますと,流してもあんまり遠くに行かないうちに分解してくれる。「遠く」というのはどういうことかというと,流して湖の方に溜まるとか,ずーっと流れていって下水処理場のフィルターの中に当たるとか,あるいは海まで行くというときに,それぞれまで行くのにどうしても時間がかかりますから,そこに行くまでにはほぼ完全に分解している。現在はみんな排水を下水に流してしまうので,ちょっと状況が違うんですけれども,例えば琵琶湖博物館での研修で皆さんがおとずれた昔の「富江(とみえ)家」の屋敷のような昔の生活であれば,流した廃水が普通は浅い水路を流れていきます。浅い水路というのは,お日様がよく当たって生き物もたくさんいます。石鹸の場合は,その段階で早く分解して,分解した結果なにになるかというと,生き物が食べられるエサになりますから,だいたいそこで問題は解決するんですね。
それに対して,合成の薬剤は,合成化学物質である界面活性剤というのは,分解に時間がかかるんです。そもそも分解が悪い(時間をかけても分解しない)というものがあります。あるいは分解がいいものでも分解に非常に時間がかかる。資料4の裏にそういったデータが載っています(資料4−A)。あとで見ておいてください。
分解に時間がかかるということはどういうことかというと,遠くに行ってから,そこでまた分解が始まるんですね。例えば,川を流れてどこかの湖に溜まってから湖の底の方で分解が始まる。あるいは下水処理場に行って,下水処理場のフィルターのあたりで分解が始まる。あるいはもっと先の海に行ってしまってから分解が始まる。ということはどういうことかというと,そういった先の方,つまりより深い方,もともと酸素があまりないところに行って,そこの酸素を消費してしまう。ですから水質にたいして与える影響っていうのはより大きく深刻だということができます。それから,そもそも分解率が低いものも多いので,環境中に流れていって非常に薄くなっても,生物にたいする毒性を維持しているという特徴もあります。
ですから,BODが高いというのは,ある意味では環境にたいする負担ですけれども,ではBODが低かったらいいかというとそうも言えない。BODが低いということは,環境中で自然には分解しないということですから,良くないんですよ,これは。例えば,ダイオキシンのBODはゼロです。ウランだってゼロです。分解しませんから。ですから,そういった数字の単純なまやかしにひっかからないようにしないといけない。しかし,メーカーはあらゆる手を使って消費者をだまそうとしますから,うっかりすると,みんなコロッとひっかかってしまうということです。
合成界面活性剤問題の最後に,資料の6番と7番を見てください。合成界面活性剤問題の話をするとき,私は必ずこの話もするんですけれども,さきほど言ったいろんな商品の中で,ちょっと意外なものに避妊具があります。これは男性が使う避妊具も,女性が使う避妊具もどちらも界面活性剤が使われているものがほとんどです。この資料6で取り上げられているのは女性が使う避妊具です。つまり女性が直接体内に入れて使うものに毒性の高い合成界面活性剤が使われている。最近の調査では,その界面活性剤には環境ホルモンに転じていく化学的性質があることも判明したとのことです。この問題はかなり前から消費者団体──この資料の「消費者リポート」というのは,日本消費者連盟という消費者団体が月に3回出している新聞ですが──この団体をはじめとして,さまざまな消費者団体が問題として取り上げて,もう十年くらい批判を重ねています。そのなかで,この商品自体は生産が一旦中止になっているんですが,どうも名前を変えたり,少し装いを変えたりして,また売っているらしい。
なぜこのような商品に合成界面活性剤が使われるかというと,毒性が高いということはつまり「殺菌作用」が高いということなんですね。ですから精子を殺すのに非常に有効であるということで,合成界面活性剤が塗ってあるということなんです。しかし,それをわれわれの身体の中で,特に吸収性の高い粘膜に接したところで使うということの危険性は,決して軽く見てはいけないと思います。これについては資料を読んでいただくと大体のことはわかる筈ですので,こういったことも含めて問題はあるんだ,ということ──シャンプーとか洗濯機だけの話ではなくて,こういったこと全部を含めた合成化学物質の使い方の問題である,というふうに認識してほしいということです。
この問題は,他のさまざまな問題と違って──例えば,原発の問題とか産業廃棄物の問題とか干潟の問題とかいろいろな問題を取り上げてきましたが,この問題だけは解決策があるんです。つまり,合成界面活性剤を使わなければいい。それだけのことなんです。例えば,食べ物であれば乳化剤とか添加物の入っていないものを選択するという解決策はありますし,お洗濯であれば純石鹸を使うという解決法は用意されているんです。そして実際にその解決策をとっている人は少なくはありません。しかし世の中全体を見たときには,メーカーのいろいろな宣伝や,手軽に使えるものを使いたいというライフスタイルの問題もあって,解決策があるにもかかわらず問題としてはひきずってしまっている。
とはいえ,なんのかんの言ったって,最近は合成洗剤の売上げは落ちてきています。じゃあ,日本で売れなくなってきたら今度はアジアで売ろう,ということで,日本の洗剤メーカーは非常に熱心にタイ,フィリピン,インドネシア,ベトナム,ミャンマー(ビルマ),バングラデシュ,スリランカというふうに東南アジアから南アジアに積極的に進出して,そこで猛烈な宣伝をしかけて,合成界面活性剤,合成洗剤をそこの人々のライフスタイルに投入しようとしています。そういった南北問題の絡んだ展開にまでなっているというのが現状です。
それでは今日の私の方からの説明はここまでにします。授業は,次の回で最終回になります。