手を抜いたプロセスからは、いいアイデアは生まれない。

プロダクトデザイン
2014.04.30

毎日が楽しくて楽しくて。運の強さに感謝しています。

西本は緊張した面持ちで、取材場所であるミーティング室へと案内してくれた。真っ白いシャツにスーツ姿というだけで、いかにも大手企業に勤めているという印象なのだが、坊主頭にしていることで、まるで中学生のように幼く見えてしまうのは、西本の笑顔に屈託がないからだろう。
話を聞く限り、学生時代から現在にいたるまで、西本には深い挫折がない。体育と図工の時間だけヒーローになれるような高校生だった西本に、1年生の時の担任が「お前は美大に行けばいい」と助言してくれる。プロダクトデザインについて何も知らなかった自分が優しい教員や仲間たちに囲まれて順調に知識や経験を積み重ね、無事に玩具メーカーに就職する。さらに「もっと多くの人に使ってもらえる製品をデザインしたい」と願えば、京セラに転職することができて、しかも希望通り携帯電話のデザインを担当することができた。おまけに、3年前には結婚もして、最近は係長への出世も果たした。
順調ですね、と声をかけると、運がいいんだと思います、と西本は笑う。
「高校生の時、『美大へ行けばいい』と言ってくれる先生がいなければ精華へ行かなかったかもしれないし、先生たちや仲間にも会えなかったですからね」

デザインの善し悪しがわからなかった学生時代。

西本が入学した当時、プロダクトデザイン学科はできたばかりで、コースも細分化されていなかった。そのため、全体を俯瞰(ふかん)するような物の見方からデザインの基礎技術までを大きな流れの中で学ぶことができたと西本は言う。
「当時はなにも気付いていなかったんですが、あの頃、先生たちに言われていたことが、いまになって『あ、そういうことだったんだ』と思い当たることがあるんです。当時から気付いている学生はいっぱいいたんでしょうけど、僕はもう大学生活が楽しければそれでいいって感じでしたから」
西本は当時の仲間たちといまでも年に一度は会って飲んで食って笑う。そして、ふと当時教員に言われたことを思い出す。
「デザイン画を出したときに普段はとても優しい先生に言われたんですよ。『これはゴミだね』って、優しい口調で」
しかし、当時の西本にはその真意がわからなかった。周囲で褒められているデザインと比べてもそれほど遜色(そんしょく)があるとは思えなかった。これがゴミで、あれがゴミではない、という境界線が西本にはまるで見えなかった。そして、そこに明確な境目があることに気付いたのは、やはり働き始めてからだ。

ゴミだと言われたからこそ気が付いたことがある。

ゴミと言われたデザインは、期せずして携帯電話のデザインだった。調査をして、アイデアスケッチを描いて、最終プレゼンまでを行うという授業で、西本はいつも通りかっこいいと思うデザインをまず最初に考えた。あとは、かっこいいデザインでなくてはならない、と思わせる適当な説明を見つけていけばいい。いま思えば、そんな手抜きのプロセスがすべて教員にばれていたことが容易にわかる。
いま、京セラの社員としてデザインを担当するとき、西本はユーザーのニーズや開発の都合などを自身の中に受け止めて、その上で新しいデザインを発想していく。つまり、デザインありきではなく、何が必要とされているのか、ということを念頭に置きながらデザインのラフを切る。そして「一人でデザインを考えている最初の段階が一番おもしろいですね」と笑う。もちろん、自分一人で考えたデザインが、そのまま製品になることはまずない。いろんな都合と思惑が製品に付加され、思ってもみなかった形になることもある。逆に、一人ではなし得なかった最終形を手に入れることもあるのだ。そこが、この仕事の醍醐味だと西本は感じている。

あの頃があるからこそ、デザインを楽しむことができている。

兵庫県の山間の町でプラモデルづくりに熱中していた少年が、大学に入ることで、知識と仲間を手に入れ、何万人という人が使う携帯電話やスマートフォンのデザインを担当している。ゴミと言われたデザイン画を描いていた男が「企画を練っている段階が一番おもしろい」と真顔で答えている。
「そういえば」と西本が話してくれた。学外に出ていろんなものを見て歩く、という授業があった。小さなインテリアショップを訪れているときに、西本がある商品を見ながら「これいいなあ」とつぶやいたのだそうだ。すると、一緒にいた教員が「いいな、と思ったら、なぜいいかを考えるようにしたほうがいい」と教えてくれた。
そんな何気ない一言がいまの西本をつくっている。

西本 圭太 (にしもと けいた)

1981年生まれ。兵庫県出身。2004年プロダクトコミュニケーションデザインコース卒業。玩具メーカーで体感ゲームなどの開発に関わり、2007年から京セラ株式会社に勤務。携帯電話、スマートフォンのデザイン業務を担当している。