ISO14001実態調査アンケート報告書
- 京都精華大学環境ソリューション研究機構調査グループ 著
監修 川添 誠(京都精華大学 環境マネジメント研究所 研究員)
まえがき
ISO14001が発行して2006年で10年を迎える。
日本における『環境』の動きもこの10年で大きく変化した。2005年には京都議定書が発効され、新しく発表される商品は環境配慮が当たり前になっている。また、「クールビズ」「LOHAS」「もったいない」などといった言葉のブランド化も進み、今や環境というものは一部の専門家だけのものではなく、広く市民に定着した概念となった。しかしながら、京都議定書における日本の目標達成は非常に困難なものであり、まだまだ環境に対する取り組みも道半ばといったところである。
環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001は、日本において十分に広がった。今や20,000件に届こうかという状況を10年前、果たして誰が想像しえたであろうか?
しかし実態として、組織における環境マネジメントシステムは十分に活かせているのだろうか?本学は、中小企業や自治体などを対象に環境マネジメントシステムの構築の支援を行ってきた。その支援先を見ていても、実態としては苦戦している組織が少なくない。
本学は、ISO14001発行10周年を迎えた今年を一つの区切りとして、これまでの環境マネジメントシステムの近畿圏における運用状況を調査することとした。
最終的に200社弱の回答を得られた。それをまとめ、本報告書とさせて頂いた。
読んで頂いた皆様の今後の環境マネジメントシステムに関する取り組みの一助となれば、幸いである。
末筆ながら、今回、本報告書作成に当たって、貴重な回答を頂いた皆様に深く御礼申し上げたい。
2006年7月
- 京都精華大学環境ソリューション研究機構調査グループ
リーダー 川添誠
1章 アンケート調査
1.1 本アンケートの目的
ISO14001が発行されて10年を向かえ、国内で18000社を超える組織が認証登録している。
環境問題が危機的な状況となる中、これだけの組織がISO14001に取り組み、環境対策を進めているのは非常に喜ばしいことだが、特に中小の組織においては、費用や労力の面で、あるいは組織内のコミュニケーションの問題等で、行き詰まりを見せている組織が多いと聞く。
ISO14001の実態調査というものはよく聞かれるが、残念ながら全国的なものが大半で、しかもクローズアップされるのは大規模な組織が大半である。しかしながら、認証登録した組織の大半は中小規模の組織のはずである。
そこで、近畿圏に範囲を限定して、主に中小の組織を対象にアンケートを行い、実態を調査してみることとした。なお今回は、業種などは限定せず、広範な業種に対してできる限り細かな内容の項目で、質問した。
1.2アンケート調査方法
本アンケートは、財団法人日本適合性認定協会(JAB)のホームページに掲載されている近畿圏の組織・計1,190件に送付した。アンケート回答は230件(回答率19.3%)であった。
1.3 アンケート対象、実施地域
アンケート対象:前項のリストから中小企業を中心に、行政機関、金融機関とした。
実施地域:近畿2府4県(滋賀、京都、奈良、大阪、和歌山、兵庫)
1.4 調査結果
別紙集計結果参照のこと。
1.5 特徴的な調査結果について
全体の統計と、中小企業、行政機関それぞれの統計を比較すると、中小企業においてはコンサルタントの役割が大きいことがわかる。行政機関においては、他業種と比べ目的、メリットに大きな違いが現れている。製造・建設業においては、ISO14001認証取得の効果がなかったとする意見が顕著に現れた。
中小企業のコンサルタントへの依存率が高いことからも、コンサルタントの力量が、システムの完成度、運用に現れている。ISO14001認証取得の効果がなかったと選択している組織で、全くコンサルタントが入っていないのは、わずか15%である。
設問1-(7)ISO14001認証取得をした目的では、[1]社会的動向が26%で最も高い数値となった。この[1]を選択している場合、約69%の組織は同時に[4]、[6]も選択している。社会的動向をチェックしつつ、『環境保全』を重視するケースと『企業イメージ』を重視するケースに分かれた。更にこの場合、前者は行政機関、後者は一般企業にわかれた。
2章 ヒアリング調査
2.1 ヒアリング調査方法
アンケートにご協力いただいた組織に直接訪問し、アンケート内容に沿って質問をさせていただき、30組織からのヒアリング結果を得ることができた。
2.2 調査結果
2.2.1 企業編
企業のヒアリング結果からは、ISO14001運用において、『うまく活用できている』『活用できていない』と明確に意見がわかれた。
うまく活用できていると回答された企業のシステム運用は、大きく3つのタイプに分けることができる。
- 全社的にISO14001に対して理解があり、協力体制が整っているタイプ
- 本業に即した運用がされているタイプ
- 明確な目的を持ち、システム運用をしているタイプ。
[1]及び[2]のタイプは理想形といえるだろう。
[3]のタイプはISO14001に取り組む目的が明確なため判断がぶれない点が特徴である。例として、『取り引き先からの要求があり、取得することだけを目的としている』『5Sを推進する為にシステムを利用する。』『環境リスク管理をする。』などの例が挙げられる。これらのタイプの場合、目的が明確な分、運用する範囲やシステム自体の軽量化に成功させている例も多い。
なお、『うまく活用できている』と回答された組織で、『コスト削減』を目的としている組織は皆無であった。
2.2.2 行政組織編
行政のヒアリング調査では、2つのテーマに集約された。
- 環境施策とISO14001運用の関係性
- 行政組織自体にISO14001は必要なのか
ヒアリングを実施した各行政組織がISO14001認証取得をする理由として、環境基本計画の実行ツールにするという意見を多く得ることができた。
では、[1]環境施策とISO14001運用の関係性の実態はどうなのか。これは明確に判断が分かれた。
活用に成功しているケースは、いわゆる定量化しやすい『紙・ゴミ・電気』であり、うまく活用できていないケースは、定量化しにくい『市民の環境意識の向上』をテーマにしている場合である。
ISO14001の運用上、定量化のしやすい部分に注目すれば、必然的に効果が現れることになるが、市役所などの行政組織においては、定量化しにくい面こそ、重要となってくる。だが定量化しにくいこういった面で、いかにシステム上の目標として設定するかは非常に難しい課題であり、その点で解決できている組織は少なかった。
既にISO14001を認証登録してそれなりの期間の経過した行政組織も多く、定量化できる面での取り組みは既に十分に実行し得た組織が多い。そこでどうしても浮かぶ疑問が「[2]行政組織自体にISO14001は必要なのか」というものである。既に結論として、ISO14001を返上し、自己宣言や、独自システムに切り替える動きは全国的に見られる。ヒアリングの対象となった各担当者からは、自己宣言をするにしても、システムの内容を担保する仕組みが必要だという意見を共通して聞くことができた。しかしながらその点において、明確にその仕組みをイメージできている組織はごくわずかであった。
2.3 調査結果から見えるもの
ヒアリング調査を通じて、ISO14001を上手に利用している要因は、組織によって様々であるが、うまく利用できていない組織には共通点がいくつかある。
- 数字を合わせることに終始している。
- 業務が特定のスタッフに集中している。
- ISO14001の維持に関する明確な目的が見出せていない。
うまく活用できていない組織から必ず返ってくる回答が以上の3点である。
3章 参考事例の報告
ヒアリング調査をする中で、ISO14001をうまく利用している。或いは、ISO14001を利用して効果が出たという事例を紹介したい。
3.1 5Sから始める
この企業は、ISO14001構築段階から最重要課題として『5S』の達成を掲げてきた。結論としては『5S』は高い次元で達成できた。社内の整理整頓、工場においても整理され、管理が行き届いていた。経営層が社員教育を熱心に推進した成果であり、粘り強く一人一人と『対話』を続けたことがポイントである。
『5S』は社外からも高い評価を受け、顧客満足度の向上、新規顧客の獲得にもつながったそうである。
3.2 内部環境監査の工夫
内部環境監査にかかわる工夫は多い。その中で特に効果的で、ユニークなものを3例紹介したい。
- [1]第三者監査(審査)に立ち会わせる
- もっとも簡単で効果的といえる。実際にいくつかの組織で行われていた。審査を本業とする審査員を間近で見ることで、監査においてどのような質問をするべきなのか。注意すべきポイントはどこか、そういった面で内部監査員の能力を飛躍的に向上させることが可能となる。
- [2]SO14001のことは忘れる
- この工夫をしている組織では、ISO14001の規格という縛りを外すことで、内部監査員は自分の組織の業務を、自分の立ち位置から監査を行うことが出来るようになる。日頃、聞きなれない規格の用語ではなく、日常的に使う言葉で、日常的な業務に関して監査を行うことで、監査側・被監査側ともより密度の濃い監査にすることができる。さらに監査を通じて組織の横の風通しが良くなり、組織全体の活性化にもつながったという事例もある。
とはいえ、ISO14001に則った監査であることは間違いない。常に監査員の一部は規格との整合性を注意していなければならず、通常の内部監査よりも高度な能力が要求されることとなる。 - [3]女性だけの監査チームを作る
- 残念ながら、ことISO14001となると、業務に携わるのは男性ばかりであることが多い。そこで、女性だけの監査チームが監査を行うことで、狭まった視界を広げようという組織があった。実際、近視眼的であったシステムに関し思わぬ指摘を受け、その組織のシステムに大きな改革をもたらすことができたそうである。
3.3 プラスの環境側面の出し方
ISO14001が2004年に改訂されて以降、審査員がよく指摘するようになった。極端な言い方をすれば、プラスの側面に配慮できているシステム=優れたシステムである、という言い方すらある。
ISO14001の内容について、いろいろな解釈があるわけが、『プラスの環境側面』にもいろいろな解釈がある。『グリーン購入』のようなわかりやすい事柄をあげている組織が多いように感じられる。
解釈はあくまで担当者次第なので、担当者の方が解釈しやすい選択されれば良いのだが、今回の調査の中から、特徴的な選択のポイントを報告したい。
結論から先に出してしまうと、「環境」を考えないというやり方が効果的である。「プラスの環境側面」が理解しにくいのは、聞きなれない「環境」というキーワードが入っているからである。
「製造工程を見直して効率化を図る」「販促方法を見直してコスト削減する」「品質管理を徹底して不具合品を減らす」これらは、通常の業務からイメージしやすい。「環境」というキーワードは含まれていないが、これらの活動は立派な「環境対策」といえる。
「攻めの環境」という言葉を使われた担当者の方がいた。「少し見方を変えればなんでも環境になる」と言われた方もいた。それが、プラスの環境側面としての解釈として正しいのかは問題ではない。その業務・製品・サービスに対して影響評価ができているかどうかが問題である。
環境という言葉に呪縛されることなく、自身の組織の業務から考えることこそ、一番大切なことなのである。
3.4 うまいISO14001の使い方
ヒアリング調査の中で、うまくISO14001を活用できているという担当者の方には、『ISO14001をうまく運用する秘訣』を必ず質問した。いろいろな要素がある中で、必ず共通する要素が3点あった。
- 内部環境監査への着目
- 本業に即した運用
- 経営者がシステムを利用する
特に、中小規模の企業の担当者の方は口を揃えて[3]の重要性を言われていたのが、とても印象的であった。
あとがき
14年前、1992年にブラジルのリオデジャネイロで『地球サミット』が開催された。その後、急速に環境問題が脚光を浴び、1996年にはISO14001が発行された。
環境問題が人類にとって共通の脅威であることは誰も疑うものではないが、その対策は必ずしも足並みが揃っているとはいえない。現代社会において、企業活動は経済に留まらない影響力があり、環境という視点においても同様である。
ISO14001が個人ではなく、組織を対象としているのは、企業を代表とする組織の持つ影響力の大きさに着目していることは言うまでもない。昨今、「企業の社会的責任(CSR)」という言葉も定着しつつあるが、営利企業がただ利益を追求するのではなく、環境面などに配慮した事業展開を行っていき、さらに自治体などの行政機関が企業や市民への環境面での優遇措置や法律上の縛りを与えることで、必然的に地球環境は改善されていくこととなる。
しかし、京都議定書における目標達成が困難となっている現在、決して、十分な改善ができていないのは確かである。ISO14001の運用における行き詰まりも決して今に始まった話ではない。
引き続き、皆様のご支援とご指導を頂くことを心よりお願いいたしたい。
- 2006年7月京都精華大学環境ソリューション研究機構調査グループ