教員のコラム 佐藤 守弘

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佐藤 守弘
京都精華大学デザイン学部准教授
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/b-monkey/

僕は、デザイン学部の共通科目の教員で、芸術学、写真論、視覚文化論の講義などを担当しています。そのような教育者としての側面もありますが、学会などで発表をしたり、論文や本を書いたりする研究者としての側面もあります——もちろん、研究の成果は教育に反映されるわけですが。

今回は、僕の研究について説明してみたいと思います。
専門は、アートやデザインなど、さまざまな芸術を研究する〈芸術学〉という領域ですが、もう少し幅広く、一般には芸術とはみなされてない視覚的イメージも扱っているので、〈視覚文化論〉の研究者と名乗ることもよくあります。

視覚文化(ヴィジュアル・カルチャー)というのは、比較的近年に使われるようになった概念で、生活のなかで僕たちが日常的に向かい合っているようなイメージ——マンガ、テレビ、ウェブ、広告なども含む——を指します。

僕はとくに、場所に関わるイメージ——絵画や写真などの画像——の歴史について研究しています。
場所のイメージといえば〈風景〉が代表例ですが、それはヨーロッパの近代で作り上げられた概念なので、もっと幅広くニュートラルな〈トポグラフィ〉——場所を描いた画像——という言葉を使っています。

去年(2011年)には、『トポグラフィの日本近代——江戸泥絵・横浜写真・芸術写真』(青弓社、芸術選奨新人賞受賞)という本を刊行しました。
そのなかから、第2章で書いた横浜写真という一群の写真についての研究の概略を紹介してみたいと思います。

横浜写真《日光》鶏卵紙印画著色、19世紀末期、著者蔵

横浜写真というのは、幕末から明治前期にかけて横浜の写真館で、おもに欧米からの観光客向けに販売された土産物の写真で、ヨーロッパから来た写真師——のちには日本人写真師たち——が日本の景観や名所、人びとの風俗などを撮影し、それをアルバムに仕立てたものが多く残っています。

当時はカラー写真の技術はまだないので、当然モノクロームなのですが、横浜写真の場合は職人が丁寧に絵の具で色を着けているものが多いのが特徴です。

僕は、そのレパートリーのなかから日本の自然景観を写した写真に注目して、それらが一方では当時科学として成立していた地理学という学問とつながり、もう一方では18世紀のイギリスを中心に大流行したピクチャレスク美学に基づく絵画の構図や対象の選びかたと大変良く似ていることを指摘した上で、ヨーロッパにおける視覚の枠組みで日本という異国をわかりやすく捉えたものではないかと主張しました。

そしてそれは、同じ頃に行われた万国博覧会や世界観光旅行と同じように、19世紀のヨーロッパの人びとが、世界を視覚によって捉えたい——あるいは支配したい——という欲望と結びついたものなのではなかったか、と結論づけました。

要するに横浜写真とは、科学、美学、商業、そして政治までもが絡みあった交差点に成立したものだったのです。このように一点のイメージから、広く社会、文化、人間の問題を考えるのが、視覚文化論という研究なのです。

トポグラフィに関する研究だけではなくて、遺影写真などの人びとの日常に根ざした写真も研究していますし、去年は明治時代の鉄道写真コレクターに注目した「鉄道写真蒐集の欲望 ——20世紀初頭の日本における鉄道の視覚文化」という論文を京都精華大学の紀要に発表しました(ここからPDFでダウンロードできます)。

他にストリート写真や仏像写真など、あまり他人が研究対象にしていないイメージを選んで、それから大きな問題につなげていくというのが、僕の基本的な研究姿勢なのです。

Posted on 2012.10.19 by seika

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