ヴィカース・スワループ
「ヴィカース・スワループの“ クリエイティブ・マインド”」

「想像力は、知識よりも重要である。知識はAからZまで導いてくれるだろうが、想像力は限りなくどこまでも導いてくれるのだ。」
アインシュタインの言葉から始まったこの講演会。
リズミカルによく通る声で快活に語りはじめたスワループさん。長年、さまざまな国で外交官として勤務してきただけあり、悠然としています。自分の作品が出版されベストセラーとなり、ましてや映画化されるとは夢にも思っていなかったと話すスワループさん。何か自分の創造性を活かしたことをしたい、それならば「書いてみよう!」という純粋な気持ちが原動力となったそうです。
想像力と創造性は種と果実の関係に似ている、とスワループさん。私たちには皆、想像力(種)は備わっているが、創造性つまり果実を実らせるためには、その種を発芽させないとなりません。そのためには、〔オリジナル性〕〔価値〕〔自分のスタイル〕の3要素が必要だということです。
この3つの要素を活かすためには、いくつかのポイントがあります。
まずは、インスピレーション。『Q&A』の最初のインスピレーションは、ある新聞記事がきっかけとなりました。ニューデリーにあるスラムの子どもたちが“Hole in the Wall”というプログラムを通じて無料でコンピューターにふれることができ、使えるようになったというものです。(参照:http://www.pbs.org/frontlineworld/stories/india/thestory.html)
これは、きっかけがあれば人は大きく飛躍できる、活気的な一例でした。これにヒントを得て、当時インドで人気だったTVのクイズ番組に出演したスラム出身の少年が全問正解し賞金を見事獲得、億万長者になる、という『Q&A』の骨子が誕生しました。(ちなみに、2作目の『Six Suspects』も実際の事件から着想を得たそうです)こうした日常生活の出来事からインスピレーションを受けることも多いそうですが、それを活かすには多くの作品を読むことも必要、とも。スワループさんは幼少時から、カフカ、カミュ、アガサ・クリスティーなどに親しんできたそうです。

次のポイントは、Serendipity=セレンディピティ、思いがけない幸福な偶然のようなものです。せっかく書いた小説も良いエージェントを見つけることが出来なければ出版に辿り着けません。スワループさんとエージェントとの出会いは、まさにセレンディピティでした。
自分に見合ったエージェントを見つけるのは簡単ではありません。文筆業は未経験だったスワループさんは、エージェント探しに試行錯誤の連続でした。中には騙されたり、なんてこともあるそうで・・・そんなある時、Webサイトで知り合ったエージェントと意気投合、しかも某大物作家を顧客にもつとの事。これは願ったりと喜び勇んで早速話しを進め、出版にこぎつけることができました。でも、実はこのエージェント、「大物作家を顧客にもつ」のはパートナーのことで、自分のことではなかったのです。つまり、このエージェントにとっては、スワループさんが初めての顧客だったのです。どちらにとっても出版にむけた初めての挑戦だったわけですが、これって、すごくリスクが伴うことでもありますよね。しかし、そこはスワループさん、「ものを書くことはリスクを背負うことと等しい、リスクを恐れて挑戦せず何もならないよりも、失敗してもいいから挑戦することが大切だ」と語ります。こういった意気込みがセレンディピティを引き寄せたのかもしれません。
そして最後はやはり、努力です。毎日、作品を書き続けたスワループさん。自分にとって100%やってみた!という達成感をもつことが大切で、自信を喪失してもスランプに陥っても、そういった苦しい過程があるからこそ形になるものがある、と一層声を強く語っていました。
さて、この講演会で出た “Q&A”を少し紹介します。
― 映画化された作品に対するスワループ氏の印象は?
小説が映画化されるということは、自分の娘を嫁に出す感覚に似ているのだとか。(ちなみに、インドでは義理の息子(婿)を悪く言うことはタブー)映画はその監督の作品であると思っているので、小説と同じものになるはずはなく、「原作の魂」、原作が目指していることに忠実であれば良し、多少変わることは覚悟していたそうです。今回の映画作品には「魂」があったので納得したということでした。
しかし、1つだけ大きく違う点があったといいます。
小説では<Luck>が、映画では<Destiney>が軸になっている点です。<Luck>は努力をすれば幸福をみつけていくことができます。原作ではそれを軸に話が展開していきます。一方、映画の軸は<Destiney>これは自分の力を超えた何か大きな力が関わってくることを指しています。
わたしたちスタッフも、小説『Q&A』と映画『スラムドック$ミリオネア』、どちらも楽しみましたが、確かに親戚関係のような、似ているようで異なる印象を受けました。それぞれの魅力、面白さを味わうことができます。

― クリエイティブ・マインドを教えることができますか?
自分の中の火種(スパークする何か)は、自分の中からしか出てこない。つまり、表現したいという思いがあって初めて形(作品)になっていくのだと。本文冒頭に出てきましたが、スワループさんの場合は「書いてみよう!」という純粋な原動力が何よりだったと思います。この火種は、教えることはできないが、教育現場では、それを形にしていくヒントや仲間の刺激・支えを得ることができる、と。
この火種は自分だけのものですから、それを生かすかどうかは本人次第。そして、仲間や学べる環境にいたら、さらに形にするチャンスの幅は広がるかもしれませんね。
この講演会では、たくさんの偉人先人のことばが出てきました。本文冒頭でアインシュタインの言葉を紹介しましたが、他にもソニー創業者・盛田昭夫、NIKEキャッチコピー誕生の逸話、さらには電子レンジを開発したパーシー・スペンサーまで。さまざまなジャンルの人たちの言葉が目白押しで、スワループ氏の経験や知性をふんだんにうかがえるものでした。
インドの魅力は奥深く、多くの人を惹きつけて止まない国だと思います。小説にも出てくる貧困、カースト制度、国民間の宗教的な対立など様々な問題がある一方、IT大国、経済成長真っ只中です。『Q&A』は、まさにインドのあらゆる面を内包したエンタテイメントとして、現代のインドを私たちに伝えてくれました。また、インド国内の様々な地域が出てくるので、旅するようにその多様な地域性を楽しむこともできます。
『Q&A』=『僕とワンルピーの神様』をまだ読んでない人は、ぜひぜひオススメします。
(そうそう、『Six Suspects』(邦題:六人の容疑者)も翻訳されていますので、こちらも手にとってみてください)
インドに行ってみたくなりますよ。
スワループさんは日本でも多忙を極めているということですが、次回作も楽しみです。スワループさんの各国滞在記なんかも読んでみたいですね。
スワループさん、貴重なお時間をありがとうございました。
(文責:社会連携センター 高山 祥子)
